「乳と卵」川上未映子 女性として生きる母と娘と『わたし』の物語、芥川賞受賞作

割れた卵を持つ手 「乳と卵」感想 小説

女性の性に関する議論が活発に起きている2021年。

そんな今こそ読んで欲しいのが川上未映子さんの小説「乳と卵」です。

「乳と卵」は川上未映子さんが2008年に芥川賞を受賞した作品でもあります。

13年前にはもうこんなにも女性性に関して踏み込んだ小説が発表され、高く評価されていたのだと思うと現在の社会を取り巻く環境に関して不可解を感じるくらいです。

時間をおいてまた読みたい、そう思わせる小説でした。

「乳と卵」の基本情報
  • 作者:川上未映子
  • 対象:中学生~
    • 少しグロテスクな描写あり
  • 2008年2月に文藝春秋より刊行
    • 2010年9月に文庫化
  • 第138回(2008年)芥川賞受賞作

「乳と卵」のあらすじ

「乳と卵(ちちとらん)」は川上未映子さんの小説です。

川上さんは2作目となるこの「乳と卵」で2008年・第138回芥川賞を受賞しました。

そんな「乳と卵」のあらすじを掲載します。

2008年の第138回芥川賞受賞作! 娘の緑子を連れて大阪から上京してきた姉でホステスの巻子。巻子は豊胸手術を受けることに取りつかれている。緑子は言葉を発することを拒否し、ノートに言葉を書き連ねる。夏の三日間に展開される哀切なドラマは、身体と言葉の狂おしい交錯としての表現を極める。日本文学の風景を一夜にして変えてしまった傑作。

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「乳と卵」の登場人物は

  • わたし(主人公)
  • 巻子:わたしの姉・39歳
  • 緑子:わたしの姪・12歳(小学6年生)

の3人のみ。とてもシンプルです。

小説は、わたしが住む東京に、大阪に暮らす巻子・緑子の親子が訪ねて上京してくるところから始まります。

また、この「乳と卵」には表題作「乳と卵」の他に「あなたたちの恋愛は瀕死」という短編も収録されています。

「わたし」の目を通した親子の物語

「乳と卵」で描かれているのは親子のバトルです。

巻子が緑子を連れて上京した理由は豊胸手術を受けるためでした。

熱に浮かされたように豊胸手術の説明をわたしにし続ける巻子の描写は、ひしひしとした恐怖を感じます。

そして、母に連れられ初めて東京にやってきた緑子はなぜか言葉を発さず、ノートを介した筆談でわたしや巻子と会話をします。

緑子が声を発さない理由は「しゃべったらケンカになるから」とありますが、その他にも豊胸手術を強行しようとする巻子への反発や哀願が感じられます。

話したいことはたくさんあるのに、それを言葉にできない。そんな辛さも感じます。

ただ、一番感じるのは巻子への願いでした。

もう間もなく大人の女性になってしまう少女の心の叫びや、現状のやり切れなさみたいなものは読んでいて辛いものがありました。

ラストの巻子と緑子のバトルは、読んだ後に奇妙な爽快感があり清々しい気持ちになりました。

この親子は、おそらく、大丈夫だろう。そう思えるラストだったと思います。

タイトル「乳と卵」の意味

小説「乳と卵」のタイトルは女性の乳房と卵子を意味していました。

(読む前に「プリンを作る話かもしれない」と思っていたわたしはバカです。)

乳房と卵子、つまり女性の性や生殖についての話が物語の大きなテーマとなっています。

「乳と卵」には緑子が書き記しているノートの記録が差し込まれています。

このノートの記述は女性として刺さらずにはいられない内容でした。

緑子がノートに書き記しているのは、自身の性や生殖についての疑問や拒否感。

文中に「ぜったいに子どもなんか生まないとあたしは思う。」というその言葉がありますが、その考えに至った経緯や理由がズンと心に沈みました。

同じ女性でも積極的に「子どもを産みたい」と思う方はいるでしょうし、緑子のように「絶対に生みたくない」と思う方もいるでしょう。

わたしは、どちらかと言えば子どもは生みたくないと考えるタイプなので、緑子の考えに共感できます。

生理や生殖について漠然とした拒否感を感じていたわたしにとっては、その拒否感や気持ち悪さを言語化してくれた作品でした。

「乳と卵」と「夏物語」の関係

わたしがこの「乳と卵」を読み始めてビックリしました。

過去に同じような話を読んだことがあったからです。

その話とは川上未映子さんの「夏物語」。

「夏物語」は2部構成になっていたのですが、この「乳と卵」はその第1部の内容とほぼ同じだったので、読みながら軽くパニックでした。

気になったのでこの「乳と卵」と「夏物語」について調べたところ、「夏物語」は緑子の未来を書きたいと思い書き始めたとのことでした。

何年か前、『乳と卵』に出てくる夏子の姪・緑子が気になっている時期があったんです。十二歳だった彼女が二十歳前後になって、どう変化しているのかなと。

本の話 <川上未映子ロング・インタビュー>「生む/生まない、そして生まれることへの問い」

ただ「夏物語」の方が、女性の性や生殖に関して深く、そして激しく切り込んでいます。

また、「乳と卵」では目の前の情景を切り取るだけで、ほぼカメラ状態だった「わたし」の心情が鮮明に書かれているのが「夏物語」の特徴です。

機会があったら「夏物語」を読み返し、感想を書きたいと思います。

「夏物語」について書かれた川上未映子さんのインタビューはこちら

「あなたたちの恋愛は瀕死」について

小説「乳と卵」を8割読み進めると、表題作「乳と卵」は完結します。

そしてもう一つの収録短編「あなたたちの恋愛は瀕死」が始まります。

20pあまりの短い話ですが、この話もなかなかショッキングで怖かったです。

テーマは「恋愛」なのでしょうが、単純な男性・女性の恋愛模様を描いた話ではもちろんありません。

取り憑かれたように念入りなメイクをしつつ、恋愛に対して憧れを抱く女性。

そして、街角でティッシュ配りをする男性。

そんな2人の出会いが描かれています。

出会いと書きましたが、ロマンチックとはほど遠い、ほぼ事故のようなものでした。

順番的に「乳と卵」を読んだ後にこの「あなたたちの恋愛は瀕死」を読むことになるので、思考がぐちゃぐちゃになる感覚でした。

定期的に何度も読み返したくなる小説

「乳と卵」は読んだ年齢やその時の状況によって、解釈や感じ方がいかようにも変化する小説だと思います。

短い小説なので、定期的に読み、感じ方・考え方の変化を楽しむというのもこの「乳と卵」の読み方の1つかもしれません。

芥川賞受賞作ということで少しとっつきにくい感じがあるかもしれませんが、全体的に読みやすくテンポが良いので、文学になれていない方にもオススメできます。

特に性について関心を抱く少女に勧めたい1冊でした。

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