「だれもが知ってる小さな国」有川浩 『コロボックル』への愛がつまった青春ファンタジー

だれもが知ってる小さな国 イメージ 小説

有川浩さんの小説「だれもが知ってる小さな国」の感想です。

佐藤さとるさんの児童文学・コロボックルシリーズの系譜を継いだ、読むと心温まるファンタジー小説でした。

主人公と同じ小学生に戻り、いっしょにコロボックルたちとふれあいたいと思わせる作品です。

「だれもが知ってる小さな国」
  • 作者:有川浩
  • 絵:村上勉
  • 対象:小学校高学年~
    • エロ・グロ描写なし
  • 2015年10月に講談社より刊行

「だれもが知ってる小さな国」あらすじ

「だれもが知ってる小さな国」は有川浩さんが手がけた長編小説です。

タイトルで分かる方は分かるでしょうが、この「だれもが知ってる小さな国」は佐藤さとるさんの名作「だれも知らない小さな国」のオマージュ作品です。

文章から「だれも知らない小さな国」への愛がひしひしと伝わってくる作品でした。

そんな「だれもが知ってる小さな国」のあらすじを掲載します。

ヒコは「はち屋」の子供。みつ蜂を養ってはちみつをとり、そのはちみつを売って暮らしている。お父さん、お母さん、そしてみつばちたちと一緒に、全国を転々とする小学生だ。あるとき採蜜を終えたヒコは、巣箱の置いてある草地から、車ととめた道へと向かっていた。「トマレ!」鋭い声がヒコの耳を打ち、反射的に足をとめたヒコの前に、大きなマムシが現れた―― 本文は村上勉の挿画がふんだんに入った、豪華2色印刷

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「だれもが知ってる小さな国」の主人公は小学3年生の少年・ヒコ(比古)。

養蜂業を営む両親とともに暮らすごく普通の少年です。

そして、ヒコと同い年で、同じく両親が養蜂業を営むヒメ(比売)も登場します。

物語はこのヒコとヒメが出会うことで始まります。

村上勉さんが表紙・挿画を担当

この「だれもが知ってる小さな国」は文芸書としては珍しく、本文中に絵が挿画があるのが特徴です。

↑は表紙の絵ですが、文中にはこんな可愛らしい絵が何回も登場します。

コロボックルシリーズでも絵を担当している村上勉さんの絵は、この「だれもが知ってる小さな国」の世界観にピッタリ。

物語の世界へとより深く入り込ませてくれます。

実は2作目だった?

この「だれもが知ってる小さな国」は、有川浩さんがコロボックルシリーズのオマージュとして描いた2作目の作品です。

勝手に単体の作品だと思っていたので、調べて驚いてしまいました・・・。

1作目は2014年4月に刊行された「コロボックル絵物語」です。

ただ、この「だれもが知ってる小さな国」から読んでも問題はありません。

「コロボックル」とは?

「だれもが知ってる小さな国」は、「だれも知らない小さな国」から始まる佐藤さとるさんの『コロボックル』シリーズの正式なオマージュ作品です。

「だれも知らない小さな国」は1959年に刊行された児童文学。

アイヌ語で『蕗の下の人』という意味を持つ小人・コロボックルと人間の少年の交流を描いた小説で、日本初の本格ファンタジーと評されています。

わたしはお恥ずかしながら、コロボックルシリーズを読んだことがありません。

しかし、読んだことがなくてもその存在は知っていました。

今回「だれもが知ってる小さな国」を読み、興味がわいたので読んでみようと思います。

ファンタジーと現実の境目

「だれもが知ってる小さな国」で描かれたのは現実のすぐ隣に存在するファンタジーでした。

佐藤さとるさんの「だれも知らない小さな国」が童話のファンタジーの中に現実を織り込む手法で高評価を受けていますが、その手法を有川浩さんがしっかり継承していると感じました。

そんな「だれもが知ってる小さな国」の特に印象に残った点をいくつか挙げていきます。

「はち屋」の子どもは大変

コロボックルと出会う主人公・ヒコは両親が養蜂業を営む「はち屋」の子。

その「はち屋」の生活はなかなかにハードで、読んでいて圧倒されてしまいました。

蜂とともに花を求めて日本中を旅する「はち屋」、その旅に付いていく子どもは1年に5回も転校を繰り返します。

転校するのは毎年同じ学校ではあるものの、2~3カ月ごとに引っ越しする生活は想像を絶する苦労がありそうです。

わたしのような部外者からするとハード極まりない生活をするヒコですが、大変だとは思っているものの全体的に飄々としていて、文中にもあるようにタフネスさを感じました。

あと、出てくる頻度は少ないものの、はちみつの描写が美味しそうで、読みながら甘いものを身体が欲してしまいました。

「だれもが知ってる小さな国」を読むときは、甘いもの(はちみつがあればベスト)をかたわらに置きつつページをめくるのがオススメです。

お伽噺のような幸せな時間

ヒコとヒメ、そしてコロボックルたちとの交流を描いた「だれもが知ってる小さな国」。

そんな小説には途中から、天使のようなミノルさんとじいじさん、フミさんという新たな登場人物が加わり、物語の世界観を広げます。

他人よりもゆっくりした時間の中で生きるミノルさんと、ミノルさんを優しく見守るじいじさんとフミさん。

ヒコとヒメがミノルさんと出会い、3人で庭の植物にネームプレートを付け、植物園を作ります。

この描写はあまりにも幸せに満ちていて、読んでいてホッと温かい気持ちになりました。

ミノルさんは知能にいくらかの遅れがある、知的障害者だと思われます。

けれども、この「だれもが知ってる小さな国」ではミノルさんをはっきりと障害者として描かず、個性的な人という風に描いています。

困ったことや大変なことを書きつつ、それでもミノルさんの美点を描く。

そんな書き方がとても良いと思いました。

イヤな人はいるけど、悪い人はいない

ヒコとヒメ、ミノルさんの平和で穏やかな時間はある日唐突に騒がしくなります。

ミノルさんのいとこ・トシオさんがやってきたためです。

このトシオさん、読んでいてもイヤな人ではありました。

しかし、悪い人と断罪できるような悪人ではなく、むしろ可哀想な人と描かれているのが印象的でした。

実際トシオさんの過去を聞くと同情せざるを得ないですし、その過去から今のトシオさんが出来上がったと考えると自然です。

イヤな人だけど、悪い人ではないし、悪い人になりきれない。

そんな、どこか愛すべき人間性をトシオさんに感じました。

やはり一番は「コロボックルの可愛らしさ」

「だれもが知ってる小さな国」の一番の魅力はコロボックルたちの可愛らしさだと思います。

ヒコと友だちになるコロボックル・ハリーはわんぱくな少年のようでなんとも可愛らしいです。

また、コロボックルたちの言葉がすべてカタカナで書かれているのも、小人の言葉らしくて面白いです。

(読みづらいのは愛嬌ですね)

少年少女の夏の思い出を描いた美しいファンタジー小説だった「だれもが知ってる小さな国」。

家族みんなで読みたいと思った小説でした。

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