川上未映子さんの小説「ウィステリアと三人の女たち」の感想です。
美しくキレイな文体ながらも非常に辛辣な川上未映子さん特有の短編小説になります。
さまざまな種類の愛や喪失感などを4人の異なる女性の視点から描いています。
- 作者:川上未映子
- 対象:中学生以上
- エログロ描写はなし
- 2018年3月に新潮社より刊行
- 2021年4月に文庫化
「ウィステリアと三人の女たち」あらすじ
「ウィステリアと三人の女」たちは川上未映子さんの短編小説です。
この小説には4編の独立した短編が収録されています。
そんな「ウィステリアと三人の女たち」のあらすじを掲載します。
大きな藤の木のある、壊されつつある家。真夜中に忍び込んだわたしは、そこに暮らした老女、ウィステリアの生を体験する。かつて存在した愛を魔術的に蘇らせる表題作。思いがけぬ大金を得、デパートで連日買い物を続ける女性の虚無を描く「シャンデリア」。いくつかの死、失った子ども、重なり合う女たちの記憶……研ぎ澄まされた言葉で紡がれる、美しく啓示的な四作を収録した傑作短編集。
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「ウィステリアと三人の女たち」のすべての短編に共通するのは『2人組の女性』の話と言うことでしょうか。
状況や年齢などは違いますが、どのお話も女性の2人組を中心とした物語となっています。
また、いずれもとてもキレイな印象のお話たちです。
文体なのか、書かれた情景なのか、その両方かもしれませんが、澄み切っていて静謐な美しさを感じる小説でした。
ただし、真冬の水のような鋭い冷たさも感じます。
読みやすくスルスルと読み進められるものの、ページをめくるのが少し恐ろしくなるような。
例えるなら、小さなナイフをずっと向けられているような感覚でしょうか。
この美しいけれど優しくない世界観は、川上未映子さんらしいと思いました。
「ウィステリアと三人の女たち」各話あらすじ&感想
「ウィステリアと三人の女たち」の各話あらすじとそれぞれの感想です。
彼女と彼女の記憶について
中学時代の同窓会に参加する女性の姿を描いたお話です。
ただ、テーマとなるのは「記憶」。
冒頭に書かれた主人公の記憶のイメージ。
自分の外側にあり存在すら忘れていた「記憶」が、ある日突然足下に置かれたら。
そんな「彼女と彼女の記憶について」書かれた話で、まさにタイトル通りでした。
主人公である女性の悪意は清々しいほどに辛辣で、そんな主人公をちやほやする周りの人たちが露悪的に描かれていました。
そんな予定調和を壊す1人の女性、そして主人公に重大な事実を告げる女性。
主人公が思い出した過去の衝撃、そして思い出した記憶の現在地が衝撃的でした。
シャンデリア
毎日のようにデパートへ行き、買い物をする女性が主人公の話です。
デパートの描写がきらびやかであればきらびやかであるほど、女性が空っぽであることが際立つ。
そんな物語でした。
川上未映子さんに「怖がらせよう」という意図はないだろうと思いますが、わたしはこの話がそこらへんのホラーよりも怖かったです。
マリーの愛の証明
「ミア寮」という施設で暮らす(おそらく)10代の少女・マリーが主人公の話です。
この「ミア寮」について具体的な説明はありませんが『精神的な病を抱えた少女たちの療養施設』という認識でおおむね合っていると思います。
少女同士の同性愛や我が子を失った母親などいろいろな立場の女性が出てきますが、ずっと乾いた印象の話でした。
逆に言えば、湿った印象の話だったら読むのは辛いだろうなと思いました。
また、色味がない話だとも思います。
想像する情景が白黒というか、セピア色というか暗い印象に感じました。
ウィステリアと三人の女たち
表題作です。
「ウィステリア」は英語で『藤色』と言う意味。
そんなタイトル通りに藤の花がキーアイテムとなるお話でした。
真夜中に途中まで壊された家に忍び込む女性。
闇に包まれた一室で女性はその家に住んでいた老女の半生を想像します。
想像であるにもかかわらず、あまりにも克明に浮かび上がる鮮やかな生活。
女性の想像の中で繰り広げられる「ウィステリア」と外国人教師の美しくも切ない関係性が心に残ります。
タイトルの「三人の女たち」は、主人公の女性、外国人教師、主人公に空き家の魅力を伝えた女性の3人と考えられます。
本当に壊れてかけているのは何なのかを考えさせられる話でした。
キレイなものにはトゲや毒がある、とは言いますが、川上未映子さんの小説はまさにそんな印象です。
心が疲れているときには毒は効きすぎてしんどくなりますが、少し元気なときにはトゲで傷だらけになってみるのも悪くありません。
女性の生き方をキレイかつ辛辣に描いた「ウィステリアと三人の女たち」の感想でした。