梅雨の長雨が続きすぎている現在(2021年7月上旬)に、真冬のイギリスが舞台となった小説をご紹介します。
その名も有名なアガサ・クリスティーのミステリー「オリエント急行殺人事件」です。
真冬の寝台特急で起きた殺人事件、と聞くと涼やかですが、展開の胸躍る熱さに引き込まれます。
雨とコロナで家から出られない今こそ、傑作長編ミステリーを読んでみませんか?
- 作者:アガサ・クリスティー
- 訳者
- 角川文庫版:田内志文
- 光文社・古典新訳文庫版:安原和見
- 講談社青い鳥文庫版:花上かつみ
- 1934年にイギリスで初版が刊行
- 角川文庫・古典新訳文庫からは2017年に新訳で登場
- 青い鳥文庫版は1999年刊行
- 名探偵ポワロシリーズ第8作目
「オリエント急行殺人事件」について
「オリエント急行殺人事件」はミステリーの女王として知られるアガサ・クリスティーの代表作である小説です。
ミステリーにそんなに詳しくない方でも、このタイトルは知っているのはないでしょうか?
何度も映画・ドラマなどで映像化されているので、読んだことがなくても何となくあらすじは知っているという方も多いと思います。
そんな「オリエント急行殺人事件」のあらすじを掲載します。
ミステリー史に燦然と輝く永遠の名作が読みやすい新訳で登場!
高級寝台特急で起きた殺人事件の容疑者は、目的地以外は共通点のない乗客たち。世界一の探偵、エルキュール・ポアロが導き出した真実とは――。”ミステリーの女王”の代表作が読みやすい新訳で登場!
オリエント急行殺人事件(角川文庫)―Amazon.co.jp
「オリエント急行殺人事件」は、寝台特急・オリエント急行で起きた殺人事件を、たまたま乗り合わせた名探偵ポワロが解き明かしていくというストーリーです。
雪で列車が立ち往生、そんな中で乗客の1人が死体となって発見されます。
列車の周りは大雪でとても逃げられる状況じゃありません。
つまり犯人も列車の中にいるのです。
しかし、現場の状況を調べれば調べるほど謎は深まるばかり。
誰がどのように殺したのか?
ラストに衝撃過ぎる結末が待っています。
この「オリエント急行殺人事件」の時代は1930年代、舞台は冒頭を除きすべて列車の中のみで完結します。
ミステリーの中でもラストが有名すぎる小説ではないでしょうか?
おそらく未読でもラストだけは知っている、という方は結構いると思います。
しかし、この「オリエント急行殺人事件」はラストを知っていても、もちろん知らなくても楽しめる作品です。
むしろラストを知っていて読むと、ところどころに隠された伏線の妙を存分に楽しむことができ、ある意味楽しかったです。(わたしは2回読んでいます)
豪華キャストで実写映画化
「オリエント急行殺人事件」は過去に2度ハリウッドで映画化されています。
1度目は1974年、2度目は2017年と最近です。
2度目の映画化の際は、そのキャストのあまりの豪華さが話題になっていました。
Amazon Prime Videoでチェックする2017年版映画「オリエント急行殺人事件」の予告編はYouTubeでも確認できます。
この予告編は1分半ほどの映像ですが、オリエント急行の世界観や登場人物のイメージがつかみやすいのでオススメです。
※ただ、一部の登場人物の名前・肩書きが変更されているので、少し混乱するかもしれません。
1930年代の寝台特急が舞台と聞くとピンとこない方は、ぜひ予告編の映像をご覧ください。
また、2015年には日本で実写ドラマ化されています。
三谷幸喜さんが脚本を書き、舞台を日本に置き換えているので内容がより分かりやすくなっています。
「オリエント急行殺人事件」の感想
「オリエント急行殺人事件」の感想を書いていきます。
ポワロシリーズ8作目にしてもっとも有名な作品
この「オリエント急行殺人事件」は、アガサ・クリスティーが生み出した人気探偵エルキュール・ポワロのシリーズ8作目にあたる作品です。
ポワロシリーズでは過去に「ABC殺人事件」についてはこちら。
ポワロシリーズは全部で33の長編と54の短編、1つの戯曲として発表されていますが、この「オリエント急行殺人事件」がもっとも有名な作品と言えるでしょう。
「オリエント急行殺人事件」が有名である理由は、前述した通り映像化されているという点にあります。
けれども、一番大きな理由はそのビックリする展開にあるのではないかと思います。
<ネタバレあり>有名すぎる?衝撃のトリック
わたしが初めてこの「オリエント急行殺人事件」を読んだのは中学生のとき。
今から10年ほど前ですが、ラストを知らなかったので1人で盛大に驚いた記憶があります。
中学生の頃は、シンプルに「これはアリなのか?」とツッコみたくて仕方なかったです。
しかし、10年も経つと「まあ、これはこれでアリだろう」と思えるようになりました。
物語は後半に差し掛かると怒濤の展開を迎えます。
ありふれた言い方ですが、点が線でつながるといった感じですね。
途中まで登場人物たちの言動などから真面目に推理していましたが、そもそも登場人物はそろいもそろって嘘をついているので当てになりません。
ただ、その伏線回収の美しさと、ポワロが出した解決によるさっぱりしたラストは好きです。
ラストから勧善懲悪ものとも見なせるので、モヤモヤした結末・イヤな結末が苦手な方にもオススメできる作品だと思います。
国民性の違い
「オリエント急行殺人事件」を読んでいて一番気になるのは、ポワロや周りの登場人物が語る国民性についてでした。
この「オリエント急行殺人事件」には
- ベルギー人
- イギリス人
- イタリア人
- ロシア人(フランスに帰化)
- スウェーデン人
- フランス人
- ドイツ人
- アメリカ人
- ハンガリー人
- ギリシャ人
と欧米のあらゆる国の人々が乗り合わせています。
わたしのような日本人からすると、正直、ヨーロッパやアメリカなどの国民性の違いはピンときません。
なので劇中で言われる「イタリア人は刃物を使う」や「イギリス人は堅苦しい」などはそういうものなのか・・・と思いながら読み進めるほかありませんでした。
1930年代という時代背景もあるのでしょうが、なかなか偏見がすごいです。
アメリカ人とイギリス人が反目し合っているというのは何となく分かる気がしますが。
こういった欧米の国民性の違いに詳しい方ならすんなりと読めるのでしょうが、わたしのようにイマイチピンとこない方には少し戸惑う描写もいくつかあるのは事実です。
物語の舞台・オリエント急行について
ここからは「オリエント急行殺人事件」の舞台でもあるオリエント急行について調べたことをまとめてみます。
オリエント急行とは
オリエント急行(Orient Express)はヨーロッパを走る長距離夜行列車です。
1883年にフランス・パリとコンスタンティノープル(現・イスタンブール)を結ぶ列車としてスタートしました。
オリエント(東洋・中近東)という名前の由来にもなっていますが、ヨーロッパとトルコなど東洋を結ぶ列車ですね。
運営会社は国際寝台車会社で、日本ではワゴン・リ社と呼ばれます。
「オリエント急行殺人事件」でポワロの助手的存在であるブークはこのワゴン・リ社の重役ですね。
ポワロが乗り、殺人事件の舞台となったのはイスタンブール発フランス・カレー行きの列車でした。
このイスタンブールとカレーを結ぶ路線は、オリエント急行の開業当時からありました。
オリエント急行が実在する列車だったなんて、何だか夢がありますね。
オリエント急行が止まったのはどこ?
「オリエント急行殺人事件」の劇中で列車が立ち往生したのは、小説では
ヴィンコヴツィとブロドの中間あたり
と書かれています。
脚注でどちらも旧ユーゴスラビアの地名と書かれていますが、全然ピンとこなかったので調べてみました。
まずヴィンコヴツィはクロアチア東部にある都市で、ブロドも同じくクロアチアの都市でした。
クロアチアは東ヨーロッパにある国で、大まかに言えばイタリアの東側にあります。
ちょうどヨーロッパと東洋を結ぶ地点に位置する国ですね。
バチカン半島にあり、国の南部がアドリア海に面しています。
国の面積は日本の九州地方の1.5倍とのことなのであまり大きくありません。
中世の美術品や建築が残されていることから、観光地として人気が高まっている国でもあります。
アガサ・クリスティーも実際に乗車している
「オリエント急行殺人事件」の作者であるアガサ・クリスティーは、実際にこのオリエント急行に乗車しています。
クリスティーの夫は考古学者で、中東方面への探索へ同行するたびにオリエント急行を使用していたとのこと。
また、この「オリエント急行殺人事件」のように、雪で立ち往生するという経験もしています。
この立ち往生は1931年で、「オリエント急行殺人事件」が刊行されたのは1934年。
クリスティー自身の経験から着想を得て書かれたのがこの「オリエント急行殺人事件」なのですね。
現在のオリエント急行
小説の舞台になった列車に乗ってみたいな~、と思いつつ調べを進めたところ衝撃の事実が!
オリエント急行は2009年に廃止されていました!
残念ですね・・・。
しかし、現在もオリエント急行の名前を冠した観光列車なら走っているとのことです。
新訳の文庫版が登場
アガサ・クリスティー「オリエント急行殺人事件」は2017年に角川文庫・光文社からそれぞれ新訳版が刊行されています。
いずれも新訳なので字も大きく読みやすくなっています。
角川文庫:田内志文訳はこちら
光文社・古典新訳文庫:安原和見訳はこちら
さらに、ローティーン向けとして青い鳥文庫でも刊行されています。
こちらならより読みやすいですね。
【小中学生向け】青い鳥文庫版はこちら