京極夏彦さんのミステリー小説「百鬼徒然袋―風」の感想です。
薔薇十字探偵社を中心とした、探偵・榎木津礼二郎が主役のシリーズ第2弾!
招き猫や鏡、お面といったモノにまつわる不思議な事件に榎木津と中禅寺が挑みます。
- 作者:京極夏彦
- 対象:中学生~
- エログロ描写ほぼなし
- 2004年7月に講談社ノベルスより刊行
- 2007年10月に文庫化
「百鬼徒然袋―風」について
「百鬼徒然袋―風」は京極夏彦さんによる連作ミステリーです。
同じく下僕・本島の視点から、榎木津礼二郎の活躍が描かれた「百鬼徒然袋―雨」の続編となります。
また『百鬼夜行シリーズ』としては、4作目の短編となります。
まずは、そんな「百鬼徒然袋―風」のあらすじを掲載します。
調査も捜査も推理もしない、天下無敵の薔薇十字探偵、榎木津礼二郎。過去の事件がきっかけで榎木津の“下僕”となった「僕」は、そのせいで別の事件にも巻き込まれてしまう。探偵を陥れようと、張り巡らされた罠。それに対し、榎木津の破天荒な振る舞いが炸裂する!「五徳猫」「雲外鏡」「面霊気」の3篇を収録。
百鬼徒然袋―風―Amazon.co.jp
「百鬼徒然袋―風」には3つの短編(長さ的には中編)が収録されています。
1編あたり200ページ超えなので、文庫で1冊出せるレベル。
そんな短編が3本も収録されて1冊になっているので、とてもお得な気分になれます。
ただ、手で持って読むにはやや重いです。そのくらいしか難点がありません。
そんな「百鬼徒然袋―風」は、シリーズ前作の「百鬼徒然袋―雨」のすぐ後くらいから始まります。
昭和28年の秋から年の瀬にかけて。
この「百鬼徒然袋」シリーズの語り手である本島が薔薇十字探偵社へ最初に訪れたのは昭和28年の初夏。
つまり、半年ほどで6つも事件に巻き込まれていることに。
忙しい半年間です。
前作「百鬼徒然袋―雨」は時系列的に「雨」の短編と短編の間に長編(陰摩羅鬼の瑕・邪魅の雫)の事件が発生している、という構成でした。
しかし、今回「百鬼徒然袋―風」は3つの短編の事件がほぼ連続して起こっています。
そのため時系列的にも読みやすいかと思います。
「百鬼徒然袋―風」各話感想・あらすじ
「百鬼徒然袋―風」は榎木津礼二郎の下僕・本島の視点で描かれた連作ミステリーです。
3つの短編はいずれもストーリー独立して完結しているものの、3編を通して探偵・榎木津礼二郎とその宿敵?羽田製鐵(せいてつ)の顧問・羽田隆三との闘いが描かれています。
ちなみに、羽田隆三とは『百鬼夜行シリーズ』長編6~7作目「塗仏の宴」に登場した人物です。
「塗仏の宴」では薔薇十字探偵社の依頼人だった羽田隆三。
今回はいろいろと因縁が重なり敵になりました。
あの手この手で榎木津を追い詰めようとする羽田と、基本的に何があっても全てを破壊し前進していく榎木津。
榎木津に対して攻撃しても効果がないため、その下僕である本島や益田が被害を受けるはめになります。
何も悪くはないのに、どんどん追い詰められていく本島と益田。
憑物落としで古書肆の中禅寺秋彦はそんな可哀相な2人をいかにして救うのか?
ここからは「百鬼徒然袋―風」の各話感想・あらすじです。
五徳猫 薔薇十字探偵の慨然
『五徳猫』は、前作「百鬼徒然袋―雨」の3編目『山嵐 薔薇十字探偵社の憤慨』の直後。
『山嵐』にも登場した紙芝居書きの近藤に招き猫を買ってくるよう言われたことから、大事件に巻き込まれていきます。
招き猫の種類、右手挙げ・左手挙げの違いとは?
招き猫の歴史についても掘り下げられています。
これから招き猫を見る目が変わってしまうような情報ばかりでした。
また、猫の妖怪の面白さも描かれています。
妖怪話にはそこまで詳しくありませんが、たしかに猫の妖怪は悪者であることが多いですよね。
さらに、この『五徳猫』には、別の短編「今昔続百鬼 雲~多々良先生行状記~」に登場する妖怪好き・沼上蓮次が登場します。
多々良先生はいません。
おそらく榎木津礼二郎と多々良勝五郎を合わせると話に収拾が付かなくなるからだと思われます。
雲外鏡 薔薇十字探偵の然疑
『雲外鏡』は『五徳猫』の直後にあたるストーリー。
下僕・本島が何者かに拘束されているところから始まります。
本島は特段よいことも悪いこともしていない、一小市民として生きています。
しかし、榎木津礼二郎に関わったため、ついに廃ビルで荒縄に縛られるところまできました。
縛られた本島ですが、縛った荒くれ者たちの1人・駿東の策略および芝居により解放されます。
その顛末を中禅寺に語る本島ですが、どうも状況がおかしい。
薔薇十字探偵社へ事情を話に行くと、榎木津を敵対視している霊感探偵・神無月鏡太郎に絡まれる始末。
押しに弱く、断り切れない本島は、結局、霊感探偵・神無月の推理のお披露目に巻き込まれてしまいます。
中禅寺の話によると、神無月は榎木津を陥れる算段とのこと。
はたして、榎木津の名誉は守られるのか?
ただ榎木津礼二郎の名誉がかかっているものの、名誉が汚されても誰も構わない、といった感じなのが薄情です。
面霊気 薔薇十字探偵の疑惑
『面霊気』は羽田隆三との因縁に決着が付く完結編。
前短編「雲外鏡」にて拉致・監禁という被害に遭った本島。
今回は薔薇十字探偵社の探偵見習い・益田とともに連続窃盗犯に仕立て上げられかけます。
とにかく災難続きです。
幼馴染みの隣人・近藤宅に泥棒が入り、その片付けを手伝わされる本島。
雑多なものであふれる近藤宅ですが、招き猫など盗られたものがあるものの、見覚えのないものもちらほら。
そのうち明らかに怪しい能面が発見され、怯えた本島は知り合いの古物商・今川の店を訪ねます。
よく知らない封印された木箱は開けてはならない。
よく知らない封印された木箱に入っている、さらに不気味なお札が貼られている能面を被ってはいけない。
そのホラーセオリーを悉く破ったがために、本島はさらなる災難に見舞われます。
まあセオリーを破ったのは全て近藤ですが。
この『面霊気』は、ストーリーそのものも面白いものの、榎木津礼二郎の父・幹麿が登場するのが何よりの特徴。
シリーズ1作目「姑獲鳥の夏」から名前こそずっと出ていたものの、本人の登場はなかった榎木津父。
榎木津礼二郎ファン待望の親子共演となります。
そして最後に、全読者待望?となる本島の下の名前も明かされます。
基本的に軽快なストーリーばかりで、解決法や結末もスカッとしているので、読後は爽快です。
榎木津礼二郎ファンは必読の一冊と言えるでしょう。
ここまで「百鬼徒然袋―風」の感想でした。