モーリーン・ジョンソンさんの小説「寄宿学校の天才探偵3 事件を解き明かすときがきた」の感想です。
三部作の3作目、ついに完結です。
80年前の未解決事件、そして現在の連続殺人事件の真相がすべて明かされます。
天才探偵として才能を開花させた少女・スティヴィの活躍に注目です。
- 作者:モーリーン・ジョンソン(Maureen Johnson)
- 訳者:谷泰子
- 対象:中学生~
- やや性的な描写あり
- グロテスクな描写あり
- 2020年にアメリカで刊行
- 2021年10月に日本で文庫化(創元推理文庫)
- 三部作の3作目(完結編)
「寄宿学校の天才探偵」1&2作目の感想・あらすじは↓
2作目「寄宿学校の天才探偵2 エリンガム最後のメッセージ」の感想
「寄宿学校の天才探偵3」について
「寄宿学校の天才探偵3」はモーリーン・ジョンソンさんのミステリー小説です。
三部作の3作目、つまり完結編となるこの「寄宿学校の天才探偵3」。
『事件を解き明かすときがきた』という副題を裏切らず、全2作で残されたままの謎をすべて解決し、見事に完結させています。
読後は大満足です!
まずは、そんな「寄宿学校の天才探偵3」のあらすじを掲載します。
NYタイムズ・ベストセラー作家の本格ミステリ
現在の三件の不審死、過去に起きた殺人と誘拐、共通項はどこにあるのか?
嵐で孤立した学校、閉じ込められた全員を集め、探偵が謎を解く
三部作完結!二酸化炭素中毒で死んだハイエス、地下道に閉じ込められたエリー、焼死したフェントン。どれも一見事故だが、スティヴィは納得していなかった。80年前の事件の二人の犠牲者、行方不明のアリス。決まったパターンは? そんな折、アカデミーに嵐が迫る。生徒は退去を命じられるが、思惑のあるスティヴィたちは勝手に居残った。天才少女探偵は過去と現在の謎を解き明かすことができるのか? 寄宿学校を舞台にしたミステリ三部作完結!
寄宿学校の天才探偵3―Amazon.co.jp
1936年に起きたエリンガム誘拐事件。
2作目では主人公・スティヴィがその真相の大部分に辿り着いたところで終わりました。
その衝撃も冷めやらぬ3作目では、冒頭からショッキングな事実が明かされ始まります。
事件の全容を掴みかけたスティヴィですが、その矢先、エリンガム・アカデミーは大雪の嵐に見舞われることに。
生徒たちは自宅へ避難したものの、スティヴィを含む一部の生徒は学園に残り、80年前、そして現在の事件の謎をすべて解決すべく奮闘します。
【ネタバレなし】「寄宿学校の天才探偵3」感想・あらすじ
「寄宿学校の天才探偵3」のネタバレなし感想・あらすじです。
クローズドサークルでの謎解き
「寄宿学校の天才探偵3」は、学園が大雪に見舞われ閉鎖されるという事態に陥ります。
山奥にあり、大雪が降れば世間と断絶されるエリンガム・アカデミー。
スティヴィは図らずもクローズドサークルの中に身を置きつつ、事件の解決に挑むことになります。
ただ、ミステリー小説の作法上、犯人はサークル内にいて、最初から登場している人物に限られるので、サークルの完成時点で犯人はだいぶ絞れます。
また犠牲者の死因、その殺害方法も判明しているので、謎解きとしてはそこまで難しくありません。
完結編でスティヴィが解き明かすのは『犯人の動機』のみ。
3冊分で積み重ねられてきた情報から、徐々に犯人があぶり出されていく様子は読んでいてとてもハラハラしました。
ヤングアダルトだけど大人っぽい
「寄宿学校の天才探偵3」はアメリカでヤングアダルト向けとして刊行された小説です。
ただ、ヤングアダルト向けであるものの、題材に『殺人事件』『誘拐事件』『恋愛』『不倫』など、けっこうアダルトな内容が盛り込まれているのも特徴。
日本のヤングアダルトは特に恋愛系はうっすらぼやかされるので、ここまで大胆に恋愛描写があるのはビックリしました。
また、これもアメリカという国の特徴だろうと思いますが、政治色が強いのもポイントだと思います。
実在の政治家を彷彿とさせるキャラクターを登場させ、そのキャラクターがどんな結末を迎えるのかで、作者の意志がハッキリ読み取れるのは日本ではあまりないので新鮮でした。
ここまで「寄宿学校の天才探偵3」のネタバレなし感想でした。
↓ではネタバレ全開のあらすじと感想を掲載していきます。
三部作で1500ページ超えの大長編でしたが、読み切って大満足でした。
1つ1つの描写が細かく、登場人物も多いので、トライするときは一気読みがオススメです。
ここからは「寄宿学校の天才探偵3」のネタバレあり感想です。
【ネタバレあり】「寄宿学校の天才探偵3」あらすじ・感想
「寄宿学校の天才探偵3」のあらすじ・感想をネタバレありで書いていきます。
「寄宿学校の天才探偵」の事件は、すべて分かってみれば、過去(1936年)・現在いずれも単純な構造です。
日本語でのタイトル「寄宿学校の天才探偵」から、トリックや謎解きを楽しむ本格ミステリーを期待していたので、そこはやや期待外れでした。
けれども、膨大な情報が積み重なり、ついに一つの結末に辿り着く、そんなミステリーの面白さは十分に味わえました。
1936年の事件の真相
2作目「寄宿学校の天才探偵2」にて誘拐事件の犯人が、アルバート・エリンガムの友人であるFBI捜査官ジョージ・マーシュであったことが判明。
エリンガムとジョージ両名は、事件から2年半後に爆発により死亡しました。
そして、唯一3作目に持ち越された謎が『娘・アリスの行方』でした。
このアルバート・エリンガムの娘・アリスについて、実はエリンガム夫妻の実子ではない、という衝撃の事実により3作目は始まります。
アリスの実の母親は、エリンガムの妻・アイリスの友人であったフローラ。
フローラはアリスの父親についてエリンガム夫妻にも明かしていませんでした。
しかし、アイリスの死後、夫妻の友人であった画家レオナルド・ホームズ・ネアが、アリスの父親がジョージ・マーシュであることに気付きます。
間もなく、ジョージ自身もその事実に気付き、自身でも行方が分からなかったアリスの捜索に一層力を入れるようになります。
借金のために誘拐させた友人の娘が、実は自分自身の娘だった。
あまりにも出来過ぎた悲劇ですが、だからこそ盛り上がるのも事実ですね。
捜索の末、ようやくアリスの居場所をつかんだジョージ。
しかし、見つけたときにはアリスは病気で亡くなっていました。
ジョージはアリスの遺体をエリンガム・アカデミーの敷地内へ埋葬。
父親である自分の近くへ置くために、という思いからでした。
その後、エリンガムとともに爆発でジョージは死亡。
事件は迷宮入りとなり、当時のことを知る人物は全員亡くなりました。
そして、現在の連続殺人事件へつながります。
現在の連続殺人事件の犯人
スティヴィと同じミネルヴァ寮で暮らしていたハイエスとエリー、そしてエリンガム事件を調べていた大学教授のフェントン。
3人を殺害したのは、エリンガム・アカデミーの校長チャールズ・スコットでした。
殺害方法はこれまでに提示されていた通り。
そして、その殺害動機はアルバート・エリンガムの『アリスを見つけ出した人物に遺産を与える』という遺言でした。
学園内での新施設建築中に埋めてあったアリスの遺体を発見したチャールズ。
けれども、エリンガム・アカデミーの関係者であったチャールズには遺産を受け取る資格はありませんでした。
また、遺産はアリスが90才の誕生日を迎えるまでに発見されなければすべて学園のものになる、という遺言もあり、チャールズはアリスの遺体を校長室に隠すことにしました。
いくら時間が経っているとはいえ、遺体と共にずっと過ごすのは精神的にキツいですね・・・。
しかし隠し通すことができず、ハイエスに気付かれた末に殺害。
また、ハイエスから事の子細を聞いていたエリーも合わせて殺害します。
遺産を受け取るために外部の人間と協力することにしたチャールズは、エリンガム事件を調べている大学教授のフェントンに協力を求めるも、折り合いが悪く殺害。
そして、すべてに気付いたスティヴィによりその罪を暴かれ、最終的には自ら命を落とします。
単純なものの、ミスもなく、スマートすぎるくらいにあっさり人を殺すチャールズ。
なかなか恐ろしかったですが、その恐ろしい部分はあまり描かれず、そこはやはり青少年向けの小説であることを感じさせました。
予想していた犯人
わたしが予想していた犯人は、ジャーナリスト志望の学生ジャーメーン・バットでした。
ハイエスの死により、ジャーメーンが運営していたサイトのアクセス数は大幅にアップ。
ジャーナリスト志望のジャーメーンにとっては又とないチャンスとなりました。
その魅力にあらがえず犯行を重ねた、というのがわたしの考えでした。
そのため、彫像の下の隠し部屋にジャーメーンが現れたときはビンゴ!と思わずにいられませんでした。
結果的には違ったものの、独自の謎解きで楽しめたのも良かったです。
フランシスのその後が知りたい
個人的に最も魅力的だったキャラクターは、1936年にエリンガム・アカデミーの第一期生だったフランシスでした。
頭脳明晰で、犯罪に憧れを抱くフランシス。
探偵であるスティヴィとは真逆の存在です。
彼女は事件を機に学園を去り、18才で社交界デビューを果たしたものの、その後の経歴は不明のまま終わってしまいました。
現代では年齢的に生きている可能性は低いので、スティヴィと相まみえることはないでしょう。
時代を超えてスティヴィと対決する形となったフランシス。
単なる脇役にしておくのはもったいないキャラクターだったと思います。
ここまで「寄宿学校の天才探偵3」の感想でした。
ミステリーとしても面白い小説でしたが、ジャネルやネイトとの友情も注目の1つではないかと思います。
10代半ばの微妙な年頃の男女の、絶妙な掛け合い、淡い友情が味わえるのは、ヤングアダルト小説の醍醐味。
自分にもあった10代を懐かしみつつ、ミステリーが楽しめた3冊だったと思います。