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「少女七竈と七人の可愛そうな大人」桜庭一樹 少女が少女でなくなるまでを描いた青春小説

雪が積もった七竈 小説
Pixabay

4月も半分以上が過ぎ、学生さんは新しい環境で苦労されている頃と思います。

わたしにもそんな時期があったな~、と思いつつ、高校生の少女が主人公の小説「少女七竈と七人の可愛そうな大人」をご紹介します。

桜庭一樹さんが描く、ザ・桜庭一樹ワールドとも言える傑作・青春小説です。

読み終わった後のさわやかな切なさを感じましょう。

「少女七竈と七人の可愛そうな大人」基本情報
  • 作者:桜庭一樹
  • 対象:中学生~
  • 中学生・高校生向けの青春小説
  • 2006年6月・角川書店より刊行
  • 2009年に文庫版も刊行

「少女七竈と七人の可愛そうな大人」あらすじ

「少女七竈(ななかまど)と七人の可愛そうな大人」は桜庭一樹さんの青春小説です。

Wikipediaでは「恋愛小説」にカテゴライズされていますが、少女と少年の成長物語と捉えると青春小説の方が妥当と思えます。

そんな小説「少女七竈と七人の可愛そうな大人」のあらすじを掲載します。

純情と憤怒の美少女、川村七竈、十七歳。

いんらんの母から生まれた少女、七竈は自らの美しさを呪い、鉄道模型と幼馴染みの雪風だけを友に、孤高の日々をおくるが――。直木賞作家のブレイクポイントとなった、こよなくせつない青春小説。

Amazon.co.jp-少女七竈と七人の可愛そうな大人

作者:桜庭一樹について

桜庭一樹さんがデビューしたのは2000年。

デビュー当時はライトノベルの世界で活躍し、TVアニメ化もされた「GOSICK<ゴシック>」シリーズで人気を博しました。

その後、2007年に「赤朽葉家の伝説」で日本推理作家協会賞、2008年に「私の男」で第138回直木賞を受賞されるなど活躍の幅を広げていきます。

(わたしは「GOSICK」・「赤朽葉家の伝説」・「私の男」もすべて読んでいますが、とても面白かったです。)

「少女七竈と七人の可愛そうな大人」は、そんな桜庭一樹さんがライトノベルと小説を両方書いていたときに発表された小説です。

現在は小説を中心に活動されているので、ちょうど転換点とも言える時期の作品です。

だからなのか「少女七竈と七人の可愛そうな大人」ではライトノベルのような少しファンタスティックな世界観と、みずみずしい人間描写が堪能できます。

植物「七竈」とは

七竈=ナナカマドはバラ科の落葉高木です。

ななかまど
七竈
Pixabay

日本では全国的に山地で見ることができ、秋になると葉が赤く色づくのが特徴です。

さらに、真っ赤な実も特徴的。

この実は葉が落ちる冬になっても真っ赤のまま残り続けます。

ナナカマドの名前の由来は「木がとても燃えにくく、7回かまどにくべても燃え残る」こと。

この「少女七竈と七人の可愛そうな大人」でも言及されていました。

ただ、実際にはこの説は間違っているようです。

実際のナナカマドはとても燃えやすく、基本的には燃え残ることはないとされています。

またナナカマドから作られた木炭はとてもよく燃えるとされ、この木炭を作るために7日間かまどへ入れておかなければならないことからナナカマドになった、という説もあります。

さらに、小説の中では「七竈の赤い実は固すぎて鳥も食べない。そのまま冬が来て、赤く美しいまま雪の中で朽ちていく」という話もありました。

このエピソードも、実際は鳥のエサになるようなので間違っているとは言えます。

ただ「美しいまま雪の中で朽ちていく」という言葉は美しいですよね。

小説の冒頭で語られる言葉ですが、ある意味呪いとして七竈を縛る言葉にもなる言葉です。

この言葉を七竈に言った人物こそが、「少女七竈と七人の可愛そうな大人」の核となる人物だったことに読後になって気付きました。

美しい少女と少年の切なくて不思議な愛の行方

「少女七竈と七人の可愛そうな大人」は主人公・七竈の高校2年生・冬~高校を卒業するまでを描いた青春小説です。

「いんらん」な母親から生まれた娘

辻斬りのように男遊びをしたいな、と思った。

「少女七竈と七人の可愛そうな大人」はそんなショッキングな一文から始まります。

独特ながらもとても美しい言葉感覚を持つ桜庭一樹さんならでは幕開けです。

ごくごく平凡で真面目な25歳の小学校教師・川村優奈は、ある朝突然「いんらん」になります。

「いんらん」=淫乱です。

そして、冒頭の一文通り、川村優奈は辻斬りのように七人の男と関係を持ちます。

なぜ七人なのか、そしてどうして唐突に男遊びに目覚める「いんらん」になってしまったのか。

優奈の変貌の理由は、物語を読み進めていくうちに分かります。

突飛な変化のようですが、理由を知れば腑に落ちる展開とも言えます。

まあそれでも突飛なことには変わりありませんが。

そして、この少々エキセントリックな優奈は主人公ではありません。

主人公は「いんらん」になった優奈が授かった娘・七竈(ななかまど)です。

七竈と雪風

わたし、川村七竈十七歳はたいへん遺憾ながら、美しく生まれてきてしまった。

「美しく生まれてきてしまった」なんて、うらやましい言葉です。

しかし、七竈にとって自分が「美しい」ということは何よりの呪いでした。

人口が少なく、娯楽も少ない田舎だと、際だって美しいというのは生きづらいことこの上ないのでしょう。

「いんらん」な母親から生まれた七竈は、異性からは無遠慮な視線を浴び、同性からは敬遠される孤独な青春を送っていました。

そんな七竈と唯一心を通わせるのが、同じく美しすぎて孤立している幼なじみの少年・桂雪風。

七竈と雪風にはある大きな秘密がありました。

<ネタバレあり>「七竈」「雪風」

七竈と雪風は同じ父親から生まれた腹違いの兄妹でした。

2人の関係は、科学的に証明されたわけではありません。

しかし、その美しいかんばせ(顔)があまりにも似ていることから、近くの大人たちや本人たちにとっては暗黙の了解でした。

そんな2人は兄妹でありながら恋人のような奇妙な親密さを保ち続けています。

言葉にしてしまえば壊れてしまうような関係。

その繊細で危うい関係が物語の結末へ導きます。

七竈と雪風が2人で過ごす場面は、文字だけなのにあまりにも鮮やかで美しい。

2人が互いの名前を

「七竈」

「雪風」

と呼び合うシーンが何度かあるのですが、文字だけなのにここまで切なさがあふれるのはなぜなのでしょう。

「少女七竈と七人の可愛そうな大人」は七竈と雪風がそれぞれの道を選び、歩み始めるところで終わります。

そのラストシーンはまるで映画のよう。

読後にさわやかな切なさを感じさせる、美しい青春小説でした。

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