小林泰三さんのミステリー小説「クララ殺し」の感想です。
不思議の国に住むはずの蜥蜴のビルが異世界・ホフマン宇宙に迷い込み、殺人事件に巻き込まれてしまいます。
現実でのビル=井森建は事件の真相にたどり着けるのでしょうか?
前作「アリス殺し」に続くメルヘン殺しシリーズ2作目です。
- 作者:小林泰三
- 対象:中学生~
- 性的な描写なし
- グロテスクな描写あり
- 2016年6月に東京創元社より刊行
- 2020年2月に文庫化(創元推理文庫)
- <メルヘン殺し>シリーズ2作目
- 「アリス殺し」の続編
「クララ殺し」について
「クララ殺し」は小林泰三さんのミステリー小説です。
前作「アリス殺し」の世界観をそのままに、舞台は一変。
メルヘンな世界で起こる血みどろの殺人劇がまた楽しめます。
まずは、そんな「クララ殺し」のあらすじを掲載します。
おとぎの国の邪悪な殺人計画
理系男子・井森は“クララ”と“くらら”を守れるか?恐怖×驚愕『アリス殺し』まさかの続編!
世界でシリーズ累計45万部突破!!奇妙な生き物やアリスという少女が暮らす不思議の国の夢ばかりみる大学院生の井森は、ある晩の夢の中で、不思議の国ではない緑豊かな山の中に辿り着く。そこには“お爺さん”なる男と、クララと名乗る車椅子の美少女がいた。翌朝井森は、大学校門の前で、夢で出会ったクララ──現実では「露天くらら」と名乗った彼女から、まるで夢の続きのように話しかけられる。彼女は何者かから脅迫を受けており、命の危機を感じていた。現実では頭が切れるが、夢の中ではビルという間抜けな蜥蜴になってしまう井森。二つの世界をまたぐ邪悪な犯罪計画から、クララとくららを守れるのか? 大人気『アリス殺し』の恐怖×驚愕ふたたび!
クララ殺し―Amazon.co.jp
解説=千街晶之
「クララ殺し」は「アリス殺し」の続編ですが、ストーリーとしてはつながっていません。
未読の方に説明するのは難しいのですが「アリス殺し」の時点で世界は一新されています。
「クララ殺し」の世界は、同じ場所に同じキャラクターが登場する新しい世界となっています。
世界観を把握するためにも「アリス殺し」を読んでおいた方が分かりやすいですが、ネタバレは特にないので「クララ殺し」から読み始めても問題はないでしょう。
<メルヘン殺し>シリーズ全4作をCheckする ≫「クララ殺し」の世界観について
「クララ殺し」は、2つ異世界にそれぞれ生きている2人のキャラクター同士がリンクしている、という設定のもと展開されていく小説です。
1つめの世界は、読者であるわたしたちが生きているような現実的な世界。
もう1つの世界は、おとぎ話のような夢の世界です。
「アリス殺し」でのその夢の世界は『不思議の国』と呼ばれていましたが、今回の「クララ殺し」では『ホフマン宇宙』と呼ばれます。
さらに、この2世界同士でリンクした相手の存在のことを、小説では『アーヴァタール』と呼んでいます。
『アーヴァタール』同士の記憶共有など、リンク度合いは人によってまちまち。
また『アーヴァタール』同士は絶対に似ているということもありません。
そして、重要なのは存在が優先されているのは夢の世界である、ということ。
夢の世界の出来事が現実世界に影響を及ぼしてしまうことです。
極端な話、夢の世界である存在が亡くなると、現実世界でそのある存在に対応する存在も亡くなってしまうのです。
「アリス殺し」では、この関係性を利用して連続殺人が行われました。
この「クララ殺し」でも、この関係を利用した殺害計画が行われます。
井森=ビルが主人公に
「クララ殺し」では、前作「アリス殺し」でも探偵役を担っていた大学院生・井森建が主人公となっています。
「アリス殺し」では主人公の補佐のような役回りだったので、昇進と言っていいでしょう。
井森の不思議の国(夢の世界)でのアーヴァタールは蜥蜴(トカゲ)のビル。
小説は、ビルが不思議の国から異世界(ホフマン宇宙)へ迷い込んでしまうところから始まります。
グロテスクな描写が苦手な方は注意
「クララ殺し」は、一部、いや全体的を通してとってもグロテスクな描写が出てきます。
※「アリス殺し」も相当でした。
また、殺人の描写・被害者として殺される描写なども鮮明に描かれます。
よって、グロテスクなシーンが苦手な方にはあまりオススメできません。
読まれる際は少し心の準備が必要かもしれません。
ネタバレになるので世界観の設定とグロ注意だけ言及して、後は↓で感想を書いていきます。
興味がある方は、ぜひ読後にご覧ください。
【ネタバレあり】「クララ殺し」感想・あらすじ
ネタバレありの「クララ殺し」感想・あらすじです。
『ホフマン宇宙』の元ネタとは?
「クララ殺し」の世界は、井森建が生きる現実世界と、ビルが迷い込むホフマン宇宙の2つ。
『ホフマン宇宙』とは、ホフマン宇宙に生きるキャラクター・ドロッセルマイヤーが唐突に名付けたものでした。
ホフマン宇宙についてビルが尋ねたものの、残念ながらドロッセルマイヤーはその意味を教えてくれませんでした。
なぜホフマン?どこから来たホフマン?となりますよね。
このホフマンの謎は、物語が完結した後、巻末で説明してもらえました。
ホフマン宇宙の『ホフマン』は、19世紀のドイツ(当時はプロイセン)で活躍したホフマンという小説家から取ったものでした。
フルネームは、エルンスト・テオドール・アマデウス・ホフマン。
法律家として働く傍ら作家や音楽家としても活躍するなど、非常に多彩な人物だったようです。
わたしは存在を知りませんでしたが、ホフマンがオリジナルを手がけた『くるみ割り人形』なら何とか知っていました。
その他にもバレエ戯曲・コッペリアの原作である『砂男』や『黄金の壺』という代表作があります。
「クララ殺し」は、ホフマン原作の小説をいくつか組み合わせた世界観が特徴。
ホフマンの小説を愛読していると、トリックの大部分が分かってしまうのも面白いポイントですね。
トリックが分かっても・・・
「クララ殺し」は「アリス殺し」と同じく、自己申告(もしくは勘違い)したアーヴァタールの不一致がトリックに使われています。
わたしは「アリス殺し」を読んでいたので、アーヴァタールを偽っている可能性が常に頭にあり、本当は誰が誰のアーヴァタールなのか?を考えながら読むことになりました。
その結果、普通に分かりませんでした。
そもそも『誰と誰が一致しているのか』を考えるよりも先に『井森=ビルは何に巻き込まれているのか』を把握するので精一杯でした。
謎解き部分は字面だけ見ると非常にややこしかったのですが、頭で考えるとそこまで難しくはなく、むしろ単純だったのに驚きます。
↓に現実世界とホフマン宇宙のアーヴァタールをまとめてみます。
現実 | ホフマン宇宙 |
---|---|
井森建 | 蜥蜴のビル |
露天くらら | 人形のマリー |
ドロッセルマイヤー | クララ |
新藤礼都 | ドロッセルマイヤー |
諸星隼人 | ナターナエル |
徳さん | マドモアゼル・ド・スキュデリ |
事件は、マリーがクララへの殺害計画を実行しようとし逆に殺されてしまった、という構図で、殺人事件そのものは1件しか起きていません。
ただ、各々のアーヴァタールがごっちゃごちゃだったり、ホフマン宇宙のドロッセルマイヤーの言動が常軌を逸していたりなどから複雑になってしまったというものです。
また、基本的に悪人は成敗される、という勧善懲悪な世界観はグロテスクですがスカッとします。
個人的には、探偵役のマドモアゼル・ド・スキュデリのかっこよさに惚れ惚れしていました。
井森=ビルが活躍?
「アリス殺し」では中盤であっさり殺されてしまうビルが、この「クララ殺し」では大活躍します。
といっても、井森は何度も殺されるという体たらくぶり。
思えば「アリス殺し」でも、井森は頭は切れるもののどこか抜けているキャラクターでした。
殺されても、優先されるアーヴァタールのビルが生きている限り、井森は復活。
ビルが殺されず、最後まで生き残ることができ良かったです。
このシリーズはまだ続きがあるので、早いうちに続編に取りかかりたいと思います。
ここまで「クララ殺し」の感想でした。