京極夏彦さんの小説「今昔百鬼拾遺 天狗」の感想です。
高尾山で同じ日に行方不明となった3人の女性たち。
3人の行方、死の真相を探るなか辿り着いた真相とは?
記者・中禅寺敦子と女学生・呉美由紀、さらに新メンバーである篠村美弥子を加えたコンビが事件に挑みます。
- 作者:京極夏彦
- 対象:中学生~
- 性的な描写なし
- グロテスクな描写なし
- ただ、気が滅入る話なので注意
- 初出「小説新潮」2018年10月号~2019年3月号
- 2019年7月に文庫化
- 「今昔百鬼拾遺 月」の3編目
「今昔百鬼拾遺 天狗」について
「今昔百鬼拾遺 天狗」は京極夏彦さんのミステリー小説です。
中禅寺秋彦が憑物落としとして活躍する『百鬼夜行シリーズ』の短編8作目。
シリーズ全体としては17作目となります。
また、中禅寺敦子と呉美由紀、この2人が事件に巻き込まれていく「今昔百鬼拾遺」の3作目にあたります。
まずは、そんな「今昔百鬼拾遺 天狗」のあらすじを掲載します。
「神隠し――と云うより天狗攫いね。高尾山だし」
今昔百鬼拾遺 天狗―Amazon.co.jp
聞き終えた敦子は先ずそう云った。
高尾山に端を発する女性たちの失踪と死の連鎖。
そのミステリを追うのも、3人の女性だった。
天狗、自らの傲慢を省みぬ者よ。
百鬼夜行シリーズ最新長篇、新潮文庫で登場!
昭和29年8月、是枝美智栄は天狗伝説の残る高尾山中で消息を絶った。約2か月後、遠く離れた群馬県迦葉山で女性の遺体が発見される。遺体は何故か美智栄の衣服を身にまとっていた。この謎に、旧弊な家に苦しめられてきた天津敏子の悲恋が重なり合い――。科学雑誌『稀譚月報』記者・中禅寺敦子、代議士の娘にして筋金入りのお嬢様=篠村美弥子、そして、これまで幾つかの事件に関わってきた女学生・呉美由紀が、女性たちの失踪と死の謎に挑む。
物語は昭和29年10月、呉美由紀が榎木津の事務所・薔薇十字探偵社を訪れるところからはじまります。
あいにく榎木津は留守でしたが、その代わりに代議士の娘で生粋のお嬢様である篠村美弥子と出会います。
美弥子が探偵社へ訪れたのは、友人である是枝美智栄の失踪事件の調査を頼むため。
そんな美弥子の話に端を発し、おぞましい事件の真相が明らかになっていきます。
短編集「今昔百鬼拾遺 月」の3編目
短編集「今昔百鬼拾遺 月」の3編目にあたる小説。
短編集といっても、この「今昔百鬼拾遺 天狗」だけで300ページを超えているので普通に長編ですが。
「今昔百鬼拾遺」シリーズは2025年現在で3編があり、今回の「河童」の他には
- 鬼
- 河童
- 天狗
があります。
物語上の時系列では
- 鬼:昭和29年1~3月ごろ
- 河童:昭和29年7~8月ごろ
- 天狗:昭和29年8~11月ごろ
となります。
ネタバレなどはないため、どの作品から読んでもOKです。
しかし、敦子と美由紀の成長が感じられるので、この順番通り読んだ方がおもしろいかと思います。
この「今昔百鬼拾遺 天狗」と、さらに短編2つが収録された「今昔百鬼拾遺 月」はこちら↓
「今昔百鬼拾遺 天狗」感想・あらすじ
「今昔百鬼拾遺 天狗」の感想・あらすじです。
ネタバレをせずに感想を書いていきます。
まさかの人物が再登場&大活躍
「今昔百鬼拾遺 天狗」は、中禅寺敦子・呉美由紀バディが事件を解決していく『今昔百鬼拾遺』シリーズの3作目。
冷静沈着な敦子と、素直で聡明な美由紀の2人はまさに名バディです。
過去2作に引きつづき、今作でも2人は大いに活躍していました。
また、今作「今昔百鬼拾遺 天狗」では2人に加え、篠村美弥子という新たな仲間も加入。
篠村美弥子は代議士の娘で、筋金入りのお嬢様。
清々しいほどのお嬢様なので、もはや嫌らしさを微塵も感じないレベルでした。
ちなみに美弥子は、榎木津礼次郎が主人公の「百鬼徒然袋―雨」に登場済み。
今作で2回目の登場となりますが、あまりに良キャラクターなので、今後の再登場もありえそうです。
ストーリーは面白い!けれど・・・
「今昔百鬼拾遺 天狗」は、ミステリーとして、とても面白いストーリーだったと思います。
けれども、犯人の動機や犯行の様子は、相当胸くそが悪いため、読むときは注意が必要です。
わたしは今回読むのは2回目で、何となく結末を覚えていたので心の準備はできていましたが、初めて読んだ時は1週間ほど気分が沈みました。
特に女性の方にはなかなか苦々しい展開となるので、心が元気なときに挑戦してください。
ただ、この気がどんより滅入る最悪な展開は敦子・美由紀・美弥子の連携プレーで退治されるので、そこは安心できます。
『天狗』について考えさせられる
『天狗になる』という慣用句があります。
意味は、調子に乗る、自惚れるなど。
自分の力に自惚れて横柄な態度をとること、また実力もないのに得意になること、という意味の言葉です。
「今昔百鬼拾遺 天狗」で描かれた天狗の神隠し(天狗攫い)のような事件の真相は、まさに『天狗』による陰惨な犯行でした。
しかしながら、ストーリーの舞台となった高尾山の天狗は山を守護する存在であり、除災開運や招福万来などの利益をもたらすとされています。
そんな良い天狗と『天狗になる』の悪い狗は同一視してはいけませんね。
ちなみに、高尾山薬王院では現在でも天狗信仰があり、天狗の像が建っていたり、あらゆる天狗グッズが販売されていたりします。
聖地巡礼ではないですが、小説の舞台となった高尾山薬王院にお詣りしてみたくなりました。
関係がないと思っていた事柄たちが、少しずつつながり、やがて事件の全容を浮かび上がらせる。
「今昔百鬼拾遺 天狗」は、やはり『百鬼夜行シリーズ』の短篇らしい面白さがありました。
ただ本当に気分が悪くなる結末なので、読むときはご注意ください。
ここまで「今昔百鬼拾遺 天狗」の感想でした。
ここからは「今昔百鬼拾遺 天狗」についてネタバレ有りでまとめていきます。
未読の方はご注意ください。
【ネタバレ有り】「今昔百鬼拾遺 天狗」について
まずは「今昔百鬼拾遺 天狗」の時系列をまとめていきます。
- 8月14日深夜天津敏子、家を出てから行方不明に
- 8月15日是枝美智栄・秋葉登代が高尾山へ
天津敏子の恋人・葛城コウも行方不明になる
- 8月16日午後天津敏子(是枝美智栄)の遺体が発見される
- 10月迦葉山にて葛城コウ(秋葉登代)の遺体が発見される
- 10月17日呉美由紀が薔薇十字探偵社を訪れ、篠村美弥子と出会う
また、4人の女性のそれぞれの境遇もまとめていきます。
- 是枝美智栄:8月15日に高尾山へ登り、天津藤蔵に「天津敏子」の替え玉として殺害される
- 天津敏子・葛城コウ:天津藤蔵により逃がされる
- 秋葉登代:8月15日に高尾山へ登り、是枝美智栄の遺体を発見してしまい、天津藤蔵に拘束された後、迦葉山に遺棄される
「今昔百鬼拾遺 天狗」の事件は天津敏子の父親・藤蔵による、替え玉殺人というのが真相でした。
体面を保つためだけに殺害された2人が気の毒すぎます。
また、頼んでもいないのに、自分たちのために父親が罪なき人を殺害していたというのも辛いです。
誰も幸せにならなかった、どこまでも腹立たしい事件だったと思います。


