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「夜が明ける」西加奈子 どうして、こんなに理不尽なのか?友人同士の男性2人の人生を描く傑作長編

カメラの撮影 夜が明ける イメージ 西加奈子 小説
StockSnapによるPixabayからの画像

西加奈子さんの小説「夜が明ける」の感想です。

「お前はアキ・マケライネンだよ!」

その一言で高校時代に出会った『俺』とアキ。

そんな2人のそれぞれの人生が描かれています。

過酷だけど人ごとではない現代の社会問題を真っ向から描いた傑作です。

「夜が明ける」基本情報
  • 作者:西加奈子
  • 対象:中学生~
    • 性的な描写あり
    • グロテスクな描写あり
  • 2021年10月に新潮社より刊行
  • 2022年本屋大賞・第6位

「夜が明ける」について

「夜が明ける」は西加奈子さんの小説です。

端的に言えば『2人の男性の人生』を描いた小説である「夜が明ける」ですが、400ページに及ぶ大長編はそれだけではとても言い表せない凄みがありました。

まずは、そんな「夜が明ける」のあらすじを掲載します。

直木賞作家が5年間苦しみ抜いて到達した祈り。再生と救済の長篇小説。
思春期から33歳になるまでの男同士の友情と成長、そして変わりゆく日々を生きる奇跡。まだ光は見えない。それでも僕たちは、夜明けを求めて歩き出す。どれだけ傷ついても、夜が深くても、必ず明日はやってくる。

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1人の男性が、自分(俺)の人生、そして高校時代の友人・アキ(深沢暁)の人生を語っていく。

『俺』の人生は『俺』の思いのままに、高校時代の友人・アキの人生は彼の日記を読みながら『俺』の言葉で綴られていきます。

小説はすべて平仮名で書かれた回想のような文章で区切られ、場面が転換。

生々しい描写の最中に、フワフワとした印象の平仮名で書かれた文章が挟まれ、ようやく息が付けるような感じでした。

ストーリーはけして楽しいものではありません。

しかし、力強さと底知れないパワーを浴びるように読める。

「夜が明ける」はそんな小説でした。

アキ・マケライネンは実在するのか?

「夜が明ける」において、主人公2人と同じくらい強烈なインパクトがあるのが、フィンランドの俳優アキ・マケライネン。

「男たちの朝」というフィンランドのマイナー映画に出演している俳優で、40才で早逝した人物。

身長193センチの巨漢で、唯一無二の圧倒的な存在感を持った俳優。

『俺』がアキに「お前はアキ・マケライネンだよ!」と話しかけたことが、2人が仲を深めるきっかけとなりました。

そしてその一言が、アキの人生を決定づけることにもなります。

マイナーで、ほとんどの日本人が知らないアキ・マケライネンという人物。

このアキ・マキライネンは架空の人物です。

そのため映画「男たちの朝」も実際には存在しない、架空の映画です。

おそらくフィクションだろうと思っていましたが、あまりにも印象的で「観てみたい!」と思わせる魅力がありました。

「夜が明ける」感想・あらすじ

「夜が明ける」のあらすじ・感想です。

2人の男性の15才から33才まで

「夜が明ける」は語り手の『俺』とその友人・アキの15才から33~4才までを描く物語です。

西暦では1998年から2016年まで。

1998年で高校1年生だった2人が、2016年の33~4才になるまでです。

また、小説は前編・後編に分かれ、前編では高校時代から就職直後まで、後編では就職直後から10年後を描いています。

ただし、その時間の経過は『俺』のもの。

約10年が空白の『俺』とは違い、アキの人生は後編で10年が描かれます。

そのため、やや時間感覚が狂います。

ただ、この違いは、『俺』の人生は『俺』がある時点から振り返っているもので、アキの人生は日記を読みつつ追体験しているため、なのだろうと思います。

2人の人生がほとんど順々に現れるので、同時期に起こったことと錯覚しがちですが、読んでいるうちに慣れました。

社会問題と肉薄する破滅

「夜が明ける」では『俺』とアキ、2人の人生に襲いかかる数々の社会問題も描かれます。

貧困や虐待、劣悪な労働環境を取り上げた小説はこれまでにも多々読んできました。

その中でも、1つの小説でここまで多くの社会問題を取り上げ、かつ生々しく読み応えがある小説はなかったと思います。

この「夜が明ける」の社会問題の描き方は、主人公2人に好意を抱けば抱くほど辛く、目を背けたくなるような描写の連続でした。

『俺』は途中から何と戦っているのか。

何と勝ち負けを競っているのか。

この「夜が明ける」の特設サイトには、世界は理不尽に満ちあふれている、との言葉があります。

実際にこの世界は、小説の世界、現実の世界問わず、理不尽でひどいことばかりです。

しかし、そんな理不尽に自ら飛び込み、ずっとその渦中でもがき続け、身をすり減らしていく。

『俺』とアキからは、おそらく本人たちは無意識である破滅願望を感じずにはいられませんでした。

ただ、地獄のような環境から抜け出すのは、並の精神力では不可能です。

破滅に向かっていくことが分かっているのに、見ないようにして、その日その日を生きていく。

そのやるせなさと恐ろしさを感じました。


1997年生まれのわたしにとって、1998~2016年は子ども時代。

『俺』とアキ、2人と同じ時間を生きてはいますが、大人の視点と子どもの視点は大きく異なります。

しかし、2人が直面した問題は、現在に生きるわたしたちにも当てはまる問題です。

人ごとではない、今も『俺』やアキと同じように苦しんでいる人がいる。

「夜が明ける」は、そんな見えない誰かに思いをはせることができる視点を与える小説でした。

※参考 

BookBang 小泉今日子と西加奈子が語る 現代社会の問題に声を上げ、発信し続ける理由

新潮社 西加奈子『夜が明ける』特設サイト

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