山本文緒さんの小説「プラナリア」の感想です。
『働かないこと』を巡る5つの物語が収録された短編集です。
2000年の直木賞受賞作ですが、今読んでも全く色あせない傑作でした。
- 作者:山本文緒
- 対象:中学生~
- エログロ描写なし
- 2000年10月に文藝春秋より刊行
- 2005年9月に文庫化
- 第124回直木賞受賞作
「プラナリア」について
「プラナリア」は山本文緒さんの小説です。
この「プラナリア」は5つの短編が収録された短編小説です。
山本文緒さんは今作で第124回直木賞を受賞されました。
まずは、そんな「プラナリア」のあらすじを掲載します。
「何もかもが面倒くさかった。生きていること自体が面倒くさかったが、自分で死ぬのも面倒くさかった。だったら、もう病院なんか行かずに、がん再発で死ねばいいんじゃないかなとも思うが、正直言ってそれが一番恐かった。矛盾している。私は矛盾している自分に疲れ果てた。」(本文より)乳ガンの手術以来、25歳の春香は、周囲に気遣われても、ひたすらかったるい自分を持て余し……〈働かないこと〉をめぐる珠玉の5短篇。絶大な支持を得る山本文緒の、直木賞受賞作!
プラナリア―Amazon.co.jp
あらすじは1つめの短編にして表題作である『プラナリア』のもの。
また、この↑のあらすじを読み、「プラナリア」が『働かないこと』をテーマにした小説であることに気づかされました。
たしかに、そうだったのかもしれません。
ジャンルとしては『恋愛』小説なのだろうと思いましたが、恋愛うんぬんではなく『生き方』を描きだす小説だったと感じます。
ちなみに、この「プラナリア」がわたしにとって初めての山本文緒作品です。
山本さんには『恋愛小説の名手』というイメージがあり、少し手が出しづらい印象でした。
しかし、今回この「プラナリア」を読み、その面白さに魅了されました。
山本文緒さんは若くして亡くなられてしまいましたが、作品は残り、読者の中で生き続けるのだろうと思うと、小説家とはすさまじい職業だと改めて感じました。
「プラナリア」感想・あらすじ
「プラナリア」の感想・あらすじです。
時代を感じさせない新しさ
「プラナリア」が刊行されたのは2000年。
わたしが「プラナリア」を読み、今この文章を書いているのは2023年です。
23年前に書かれた小説である「プラナリア」。
読む前は『20年以上前の恋愛小説が楽しめるだろうか』と不安でしたが、読んでみると共感だらけで引き込まれました。
描かれている悩みや感覚は今の時代とほとんど変わりません。
山本文緒さんの感覚が新しかったのか、23年前から時代が動いていないのか。
そのどちらにしても、古い小説とまったく感じさせない面白さに驚きました。
働けないではなく『働かない』
Amazonの「プラナリア」ページから引用したあらすじに
〈働かないこと〉をめぐる珠玉の5短篇
という文章がありました。
この文章を読み「プラナリア」が『働かないこと』をテーマに描かれた小説である、ということに気付かされた、と↑で書きました。
たしかに「プラナリア」には働いていない、いわゆる無職の人たちが登場します。
ただ、無職と言っても『働けない』ではなく『働かない』という無職です。
ある事情から働けなくなり、そのまま働かなくなった人。
表題作でもある『プラナリア』は、乳がんの治療のために休職し、仕事に復帰したものの退職してしまった女性の話です。
もう働けるのに働かない。
「やる気がなくなり、面倒くさくなって会社を辞めた」という彼女を甘いと断罪することもできます。
ただ、彼女に共感したわたしには、彼女を断罪することはできません。
ある日突然、全てを投げたしたくなる。
その感覚に襲われたことがあるわたしにとって、彼女の考えや行動は親しみやすいものでした。
『プラナリア』では、後半、彼女が再び働き始めます。
そして、ある出来事をきっかけに、これまで棚上げにしてきた未来について、大きな決断をすることにもなります。
流されているようで、確固たる意志がある。
そんな彼女が選んだ『プラナリア』の結末はけっこう好きです。
表題作『プラナリア』をはじめ、この「プラナリア」には『働かないこと』を中心に据えた恋愛模様が描かれていきます。
どれも冷静に見るとドロドロした恋愛模様であるはずなのに、ドライな文章で描かれるので、ずっと爽やかな印象でした。
わたしにとって初めて呼んだ山本文緒さんの小説ですが、とても読みやすかったです。
ここまで「プラナリア」の感想でした。