相沢沙呼さんの小説「medium 霊媒探偵 城塚翡翠」の感想です。
ミステリアスで可愛い美少女探偵・城塚翡翠と、助手で小説家の香月史郎のコンビが霊媒の力を使い難事件の解決に挑むミステリー小説です。
とにかく最後まで読んで欲しい!そう思わずにはいられない、圧巻の結末は必見です。
たぶん、この展開は予想できません・・・。
- 作者:相沢沙呼(あいざわさこ)
- 対象:中学生~
- 性的な描写あり
- グロテスクな描写あり
- 少々過激な表現もあるので注意
- 2019年9月に講談社より刊行
- 2021年9月に文庫化
- 第20回本格ミステリ大賞受賞
- このミステリーがすごい!・1位
- 本格ミステリ・ベスト10・1位
- SRの会ミステリベスト10・1位
- 2019年ベストブック
- 2020年本屋大賞・第6位
- 吉川英治文学新人賞・候補作
- 2022年に連続ドラマ化
「medium 霊媒探偵 城塚翡翠」のあらすじ
「medium 霊媒探偵 城塚翡翠」は相沢沙呼さんのミステリー小説です。
この「medium」(以後、略します)、何をどう説明してもネタバレになりそうな、非常に感想を書くのが難しい小説でした・・・。
とりあえず「medium」のあらすじを掲載します。
推理作家として難事件を解決してきた香月史郎は、心に傷を負った女性、城塚翡翠と出逢う。彼女は霊媒として死者の言葉を伝えることができる。しかしそこに証拠能力はなく、香月は霊視と論理の力を組み合わせながら、事件に立ち向かう。一方、巷では連続殺人鬼が人々を脅かしていた。証拠を残さない殺人鬼を追い詰められるのは、翡翠の力のみ。だが殺人鬼の魔手は密かに彼女へと迫っていた――。
medium 霊媒探偵 城塚翡翠―Amazon.co.jp
「medium」は探偵と助手の出会いから、数々の事件を解決していくまでを描いた小説です。
連作となっている4編で構成されており、探偵と助手が事件を通して絆を深めていく様子が描かれます。
また、1~3編の末尾には殺人鬼の「インタールード」が挿入。
※「インタールード」とは、劇などの幕間に上演される出し物のこと。幕間狂言とも呼ばれます。
それにより、殺人鬼が探偵・城塚翡翠に肉薄していく様子が分かります。
この事件たちはそれぞれ独立しているようで独立していないのがポイント!
ラストに思いもよらぬところでつながっていて、さすがにゾッとしました。
これから読む方には、とにかく細部にわたって隅々まで読むことをオススメします。
「medium」のキャラクターたち
「medium」の登場人物は、
- 主人公であり語り手:香月史郎(こうづきしろう)
- ヒロイン&探偵訳:城塚翡翠(じょうづかひすい)
の2人。
この2人を中心にミステリーが展開されていきます。
多くの探偵ものと同様に、探偵と助手がペアになって活動します。
「屍人荘の殺人」などでも見受けられますが、最近は美少女探偵&助手は普通の男性というコンビが流行っているようですね。
また、その他にも、
- 翡翠のパートナー:千和崎真(ちわざきまこと)
- 警察の協力者:鐘場正和(かねばまさかず)
と小説全編を通して登場し、コンビをサポートするキャラクターもいます。
そこまでメインの登場人物が少ないので比較的読みやすいと言えますね。
思わず目を惹く美麗な表紙
「medium」は小説の内容云々よりもまずその表紙に目が行きます。
(もちろん、小説の内容云々も特筆すべき部分はたくさんありますが、長いので後述します。)
↑は少し宣伝が入っていますが、その美しさは十分に伝わりますね。
表紙は(おそらく)ヒロインである城塚翡翠の姿です。
小説内で何度も言及されている通り、神秘的な美貌と可愛らしさが混在していますね。
この表紙絵を描いたのはイラストレーターの遠田志帆さん。
遠田志帆さんは「medium」の他にも、
- 「屍人荘の殺人」シリーズ
- 「Another」シリーズ
などといった小説の表紙絵を描いています。(↑の例はわたしが読んだことがあるシリーズでした。)
どおりで「どこかで見たことある絵だな~」と思ったわけですね。
わたしの読書歴が偏っているのか、これまで遠田志帆さんの絵に触れている機会は多かったです。
美麗かつミステリアスな筆致で描かれる絵は、たしかにミステリーにピッタリですね。
タイトル「medium」の意味について
この小説のタイトル「medium」には実にいろいろな意味があります。
まずは『中間』『中庸』といった中くらいという意味。
ステーキ肉の焼き加減や服のサイズ・Mにも「ミディアム」は使われますね。
※小説の「medium」の読み方は『メディウム』です。悪しからず。
さらに『媒質』や『媒体』といった少々聞き慣れない言葉も。
ただ、この媒質などと意味も『間にあるもの』といった意味なので、中間からは遠くありません。
また生物にとっての『生活環境』『生活条件』や、美術用語としての『手段(表現手段)』『方法』といった意味もあります。
そして、最後にあるのが『霊媒』という意味。
小説「medium」はこの『霊媒』という意味として使われているのでしょう。
「medium」に『霊媒』という意味があるのはもちろんですが、こんなたくさんの意味があるなんて知らなかったです・・・。
<ネタバレなし>「medium」の注目ポイント
がんばってネタバレなしに「medium」についてまとめてみます。
『霊媒』の力は限定的
『霊媒』とは自分を媒介し、霊と交信すること。
つまり、霊と話をすることができる能力とイメージすれば間違いではないと思います。
しかし、そうなると霊に聞けば犯人が分かってしまうため、ミステリー小説としては面白みが半減します。
それもあってか、この「medium」では『霊媒』の力は限定的になっていました。
簡単にまとめてみると
- 城塚翡翠は死者の魂を呼び寄せ、自らに憑依させることができる
- 死者の魂は、死者が亡くなった場所でないと呼び出せない
- すべての魂が呼び出せるわけではない
といった感じでしょうか。
この力で得たわずかなヒントを使い助手の香月史郎が事件を解決に導いていく、というのがこの「medium」の展開でした。
こちらの作品に登場するのは『心霊探偵』です↓
ポップな文体で読みやすい
「medium」は文体がとてもポップなのが特徴です。
ミステリー小説と聞くと、読み慣れていない方は「難しそう・・・」と思ってしまいそうですが、この「medium」は非常に読みやすいです。
作者の相沢沙呼さんはライトノベルでの執筆経験も豊富な方。
そのためか若者にも読みやすい感じで、普段、小説を読み慣れていない方にも手に取りやすい手軽さがあると思いました。
ヒロインが可愛い
「medium」の注目ポイントは、何と言ってもヒロインの可愛さに尽きるのではないでしょうか。
ヒロインでありこの「medium」の探偵役でもある城塚翡翠は、白色人種とのクォーターで黒髪・翠眼・白い肌というフィクション的美人要素をこれでもかと詰め込んでいます。
そんな美少女が神秘的な霊媒として活躍するという、ザ・フィクションと言える現実離れした設定が読んでいて最高でした。
これでこそミステリーと言った感じですね。
ミステリーはトリックこそ現実的であって欲しいですが、人物設定はどこまでぶっ飛んでいても許容できます。
さらに、15歳まで海外にいたという経歴から来る『日本に不慣れで天然』というキャラクターも、フィクションと思えば可愛らしかったです。
また、個人的に意外だったのが、作者の相沢沙呼さんが男性だったという点です。
小説中では服装やメイクに関する細かい言及が多かったので、勝手に作者は女性の方だと思っていました。
そういった意味でも騙されていたので、読者としては完敗でした。
以上、ネタバレなしの「medium」感想でした。
※参考 講談社「medium 霊媒探偵城塚翡翠」相沢沙呼
↓にはネタバレありの感想が書かれているので、未読の方はご注意ください。
≪ネタバレ注意≫「すべてが、伏線。」の意味とは
「medium」の帯には数々の受賞歴とともに『すべてが、伏線。』との印象的な文言が書かれていました。
この言葉、読み終わってみると猛烈に納得できます。
本当に、すべてが伏線でした・・・。
正直、読み終わった後に「怖すぎる・・・」と思ったくらいです。(最大の褒め言葉です。)
ここからは、ネタバレありで『すべてが、伏線。』の意味をわたしなりに解説していこうと思います。
第3話までと第4話の違いについて
まず、この「medium」を4編の連作短編と上の方で書きましたが、正しくは3編の連作短編プラス答え合わせ編の計4編です。
第3話までの内容が『読者への挑戦状』であり、第4話からがこれまでの『答え合わせ』でした。
第3話までの謎解きも読み応えがあり面白かったのですが、第4話を読むとそれまで納得して読んでいたいろいろが見事にひっくり返されます。
そんな第4話では、ついに前3話でも登場し続けた連続殺人鬼との対決が行われます。
しかし、第3話のインタールードでは霊媒探偵・城塚翡翠が殺人鬼に捕らえられ絶体絶命!という展開になっていました。
城塚翡翠はプロローグでも
「妨げようのない死が、すぐそこまでこの身に近づいているのを感じるのです」
と語っていたので、この展開はある意味予想通りと言えます。
また、助手・香月史郎はかつて親しい誰かと死別している、という描写が時折挟まれていました。
この描写をもっとしっかり読んでいればな~、と思うものの、もう読んでしまったので後の祭りです。
というわけで、この↓からは犯人など「medium」の根幹に触れていきます。
連続殺人鬼の正体について
ミステリー小説、特に「medium」のような本格ミステリーは読者に対してフェアであることが求められるジャンルです。
読者には謎が解ける要素をすべて提示し、その上で騙す。
それが本格ミステリーの醍醐味であり、作者の腕の見せ所と言えます。
したがって、ストーリー全体を通して登場する連続殺人鬼が、これまで一度も登場しなかった見ず知らずの誰かであるのはアンフェア。
本格ミステリーとしては駄作だと思います。
しかし、まさか連続殺人鬼が探偵の助手である香月史郎だったとは・・・。
山奥の別荘に2人で向かったときは「向かった先でさらわれてしまうのか・・・」ののんきに思っていた自分が恥ずかしいです。
言われて見ると、たしかに香月史郎が連続殺人鬼・鶴岡文樹(つるおかふみき)であることを示す伏線はけっこう散りばめられていたのですよね・・・。
一番は第3話の犯人が香月史郎に対し、人殺しの快楽について同意を求めたところだったのでしょう。
殺人鬼同士のシンパシーを示していたのだとしたら、とても重要なシーンだったのですね。
あのミステリーの傑作を彷彿とさせる
わたしは、けっこう最近にアガサ・クリスティーの小説「アクロイド殺害事件」を読んでいます。
この「アクロイド殺害事件」はクリスティーの傑作ですが、賛否両論を巻き起こした衝撃作としても有名です。
「medium」を読み終わり、最初に思い浮かんだのはこの「アクロイド殺害事件」でした。
「アクロイド殺害事件」のネタバレになるので多くは語りませんが、少なくとも私にとっては「アクロイド殺害事件」以上の衝撃作でした!
そんな「アクロイド殺害事件」の感想は↓
霊媒探偵・城塚翡翠について
「medium」の『すべてが、伏線。』のもう1つの要素、それは城塚翡翠の霊媒の力がインチキだったという点につながります。
助手・香月史郎が殺人鬼なら、霊媒探偵・城塚翡翠もインチキ霊媒師。
香月史郎ショックも覚めやらぬうちに城塚翡翠ショックに見舞われる読者の心を少し慮ってほしいものです。(褒めています。)
けれども、城塚翡翠がインチキなのは霊媒の力のみ。
城塚翡翠は霊媒ではないものの、探偵としては超一流の名探偵でした。
その謎解きのスゴさは『スゴい!』を通り越して『怖い・・・』レベルです。
心霊ホラー系ミステリーかと思わせておき、実はバリッバリの本格ミステリーだった「medium」。
実は続編も出ているとのことなので、早速手に入れて読みたいと思います。