東野圭吾さんのサスペンス小説「美しき凶器」の感想です。
未来のために過去を葬ろうとした元アスリートたちが、復讐者との死闘を繰り広げます。
スリリングで躍動感あふれるアクション描写とテンポの良い展開は読みやすさ抜群!
ミステリーやSF要素もある贅沢な一冊でした。
- 作者:東野圭吾
- 対象:中学生~
- 性的な描写ややあり
- グロテスクな描写あり
- 1992年10月に光文社より刊行
- 1997年3月に文庫化
- 2020年3月に新装版が登場
「美しき凶器」について
「美しき凶器」は東野圭吾さんのサスペンス小説です。
1992年と東野圭吾さんのデビュー当時に刊行されたこの「美しき凶器」が新装版として登場!
30年以上前の作品ですが、内容はほとんど30年という月日を感じさせないほど読みやすかったです。
ミステリー要素もありますが、ハラハラドキドキのサスペンスフルな展開は読んでいてとても楽しめました。
まずは、そんな「美しき凶器」のあらすじを掲載します。
「試行錯誤していた頃、失敗覚悟のチャレンジ作」――著者より
文字を大きくして読みやすくした新装版第6弾!
美しき凶器―Amazon.co.jp
罪を犯した元スポーツ選手らに謎の女が襲い来る――! かつて世界的に活躍した男女四人のスポーツ選手が、ある男を殺した。男は彼らの消し去らねばならない過去を知る唯一の人物だった。足のつかない犯罪を実行したはずの彼ら。しかし一人、また一人と何者かに襲われていく! 迫りくるその姿は、さながら“毒蜘蛛”のようで――! 得体の知れない何かに追い詰められる恐怖を鮮烈に描いた傑作サスペンス!
あらすじの前に『ミステリー要素のあるサスペンス』と紹介しましたが、この「美しき凶器」にはSF要素も含まれます。
スポーツ科学をテーマに、驚異的な身体能力を持つ人間と元アスリートたちが死闘を繰り広げる、スリリングなストーリー展開。
また、一連の事件の背景に隠された「美しき凶器」の正体には素直に驚かされました。
グロテスクな描写が多めですが、文章なのに迫力あるアクションとスピーディーな展開はわたしたち読者を飽きさせません。
エンターテイメント作品としてオススメしやすい一冊かと思います。
「美しき凶器」感想・あらすじ
「美しき凶器」の感想・あらすじです。
悪を以て悪を制す
「美しき凶器」は、元アスリート4人がある過去を知る医師を口封じで脅迫したものの、弾みで殺害してしまうところから始まります。
殺人を犯してしまったものの結果オーライ、といわんばかりに過去に関する証拠とともに屋敷を焼き払い、現場を後にする4人。
完璧なはずの犯罪計画でしたが、その事件の一部始終はある人物に目撃されていました。
その目撃者が復讐のために元アスリート4人を次々と襲いに行く、というのが「美しき凶器」のあらすじです。
死に物狂いの鬼ごっこ、捕まった人物から殺されていきます。
一人一人仲間が殺されていく、という意味ではホラー小説とも言えますね。
元アスリート4人が隠したい『ある過去』は、小説の中盤まで伏せられていますが、まあドーピングです。
ドーピング検査に引っかからない画期的な処置を生み出した医師の元、現役時代に素晴らしい成績を残した元アスリートたち。
現役を退き、セカンドキャリアを充実させているからこそ、証拠隠滅と医師への口封じを考えます。
私利私欲のためにドーピングに手を染め、証拠を隠すために故意ではないものの医師を殺害した彼らは悪人でしょう。
そして、そんな彼らを襲う目撃者は、復讐のためなら他の人間を殺害することもいとわない、やはり悪人です。
悪人VS悪人、悪を以て悪を制す構図が楽しめるのがこの「美しき凶器」の魅力だと思います。
わたし自身、この悪を以て悪を制す構図が大好きなので、たまりませんでした。
三者の様子がスリリングに描かれる
「美しき凶器」は
- 元アスリート4人
- 犯行を目撃した『彼女』(タランチュラ)
- 警察(紫藤巡査部長)
という三者それぞれの様子が三人称により描かれていきます。
復讐のために迫る目撃者の存在に怯える元アスリートたちと、そんな彼らに迫る目撃者『彼女』。
そんな二者の攻防に少しずつ近づいていく警察たち。
話の流れはほとんど時系列通りなので混乱はありません。
一方の立場から見えていた状況が、他の立場から見ると違った形で見えてくるのが興味深かったです。
悪と悪が戦いを裁けるのは、第三者で正義である警察しかいません。
しかし、この「美しき凶器」での警察は『彼女』に振り回されるばかり。
こんな不可解な事件なので仕方ないとは言えますが、正義がしっかり執行される様も見てみたかったとは思います。
タイトル『美しき凶器』の意味
この小説のタイトル「美しき凶器」は、読む前と呼んでいる途中、さらに読後のそれぞれで感じる意味が変わりました。
小説の終盤まで「美しき凶器」というのは、科学技術の結集として育てられた『彼女』のことだと思っていました。
女性としては珍しいほどの長身と、鍛え抜かれた肉体。
圧倒的な筋力は1人で男性複数人を仕留められるほどです。
その肉体は強さも含めて美しいと言えます。
けれども『彼女』の体にまつわる真実が明かされると、そのグロテスクさから美しいと素直に思えなくなりました。
正直、ショッキングなシーンが多いこの「美しき凶器」の中で、一番グロテスクで気持ちが悪い部分です。
また、小説の終盤で起こるある出来事で本当の『美しき凶器』が明かされ、そこから怒濤の展開に。
最後の方は少し駆け足でドタバタしていましたが、結末は美しかったです。
思い返してみると、やはり『彼女』は「美しき凶器」だったのだと思いました。
「美しき凶器」は女性同士の戦い、という部分でも面白い小説でした。
また『彼女』が復讐に駆られる理由を思うと、なんとも言えない苦々しさが残るストーリーでもあります。
一気読みがオススメなサスペンス、ここまで「美しき凶器」の感想でした。