雨が多くなり、ジメジメした季節が今年もやってきました。
湿気が多いのは不快ですが、そんな雨の季節に最盛期を迎えるのがアサガオ。
今回はそんなアサガオが事件のカギを握る東野圭吾さんの小説「夢幻花」をご紹介します。
バラバラだと思われていた登場人物たちが少しずつ繋がっていく。
そんなミステリーの醍醐味を味わいつつ、さわやかな青春も感じられる1冊です。
- 作者:東野圭吾
- 対象:中学生~
- 性的な描写なし
- グロテスクな描写あり
- 2013年4月にPHP研究所より刊行
- 2016年4月に文庫化
- 第26回(2013年度)柴田錬三郎賞・受賞
- 単行本・文庫の累計は100万部を突破
「夢幻花」あらすじ
「夢幻花」は東野圭吾さんが手がけたミステリー小説です。
現存しないはずだった『黄色いアサガオ』を巡る人間たちの思惑、そして宿命が描かれています。
はじめは無関係だと思われた人たちがどんどん繋がっていくさまは、まさに東野圭吾のミステリー!
さらに、この「夢幻花」は青春要素もあり非常にさわやかな読後感でした。
そんな「夢幻花」のあらすじを掲載します。
「こんなに時間をかけ、考えた作品は他にない――」by東野圭吾
花を愛でながら余生を送っていた老人・秋山周治が殺された。第一発見者の孫娘・梨乃は、祖父の庭から消えた黄色い花の鉢植えが気になり、ブログにアップするとともに、この花が縁で知り合った大学院生・蒼太と真相解明に乗り出す。一方、西荻窪署の刑事・早瀬も、別の思いを胸に事件を追っていた…。宿命を背負った者たちの人間ドラマが展開していく“東野ミステリの真骨頂”。第二十六回柴田錬三郎賞受賞作。
夢幻花(むげんばな)―Amazon.co.jp
2つのプロローグの謎が明かされていく
「夢幻花」は、まず2つのプロローグから物語の幕が開きます。
プロローグ1は昭和30年代の東京。
本文中に「2年後に東京オリンピックを控えている」とあるので、正確な時期は1962年・昭和37年です。
しかし、そのシーンはショッキングな出来事で幕を閉じ、時代は40数年後のプロローグ2へ。
その冒頭のシーンが後の展開すべての始まりとなります。
急展開なので失念することはないでしょうが、このシーンをしっかり覚えておくとより「夢幻花」が楽しめます。
プロローグ2は主人公である蒼太の中学時代が描かれます。
毎年足を運ぶ家族の恒例行事・朝顔市で蒼太は浴衣姿の少女・孝美と恋に落ちます。
メールのやり取りし、微笑ましいデートを重ねた淡い初恋でした。
しかし、ある日突然、そんな蒼太の初恋は父親の反対により破局を迎えます。
いかにも健全な中学生同士の恋愛だった2人の関係。
それなのにどうして父親は強行に破局を迫ったのか。
その切ない理由は小説の後半で明かされます。
※ちなみに、蒼太と孝美の出会いの場となった朝顔市は実際にある行事です。
バディものとしての楽しみも
プロローグ後、「夢幻花」本編では、いきなり大学生の梨乃がメインとして登場します。
年の近い従兄弟が自殺し、その数ヶ月後に祖父が殺されるという悲劇に見舞われた梨乃。
祖父の死後、花好きの祖父が育てていた『黄色い花』がなくなったことに気付きます。
その『黄色い花』の行方・正体を探るうちに、梨乃はプロローグ2でも登場し大学院生となった蒼太と出会うことに。
この梨乃と蒼太がタッグを組むことで、物語は勢いよく展開していきます。
行動力のある梨乃と冷静で頭脳明晰な蒼太。
そんな2人のバディものとしても面白く読めるのが「夢幻花」の特長です。
どちらも20代前半~半ばと若く、わたしと同年代なので考えに共感しながら読み進められました。
梨乃と蒼太のさわやかな関係が、ヘビーな物語を読みやすくしてくれました。
また、PHP研究所のHPには「夢幻花」の登場人物紹介・相関図が掲載されています。
相関図は小説を読み進めてこんがらかった人間関係を整理するのにピッタリです。
著者・東野圭吾さんのインタビューも読めるので、興味がある方はぜひご覧になってみてください。
「黄色いアサガオ」は本当に存在しないのか?
「夢幻花」の鍵となる『黄色いアサガオ』について気になったので調べてみました。
※小説の内容に触れている部分があるので、未読の方は気を付けてください。
「アサガオ」について
アサガオはヒルガオ科サツマイモ属の一年草です。
まず、アサガオがヒルガオ科の植物ということに衝撃を受けます。
さらなる衝撃として、ヒルガオ科にはヒルガオ属がありますが、アサガオはサツマイモ属の植物だと言うこと!
ヒルガオはアサガオとよく似た花を咲かせる植物で、昼間に咲くからヒルガオ(昼顔)と呼ばれます。
しかし、そんな花が咲くのが朝か昼かの違いしかなさそうなアサガオとヒルガオは分類上では属から異なるのですね。全然知らなかったのでビックリしました。
また、サツマイモ属であるアサガオ。
サツマイモ属には当然さつまいもが含まれるので、アサガオはさつまいもととても近い植物と言えます。
そんなアサガオは日本で最も発達した園芸植物とも言われ、数え切れないほどの品種改良を経てきた歴史があります。
「夢幻花」にも書かれていましたが、江戸時代には空前のアサガオ栽培ブームがあったようです。
わたしのアサガオのイメージは小学1年生のときに学校の授業で栽培したくらいですが、園芸好きの間ではずっと高い人気を誇る花だったのですね。
アサガオの毒について
※「夢幻花」の内容に触れているので未読の方は注意してください。
アサガオには毒が含まれます。
身近な植物のイメージがあるアサガオですが、実は食べると危険です。
(あまり好んで食べる方はいないと思いますが・・・)
毒を含むのはアサガオの種子。
「夢幻花」でもアサガオの種子を服用した幻覚作用が発端となり物語が始まりました。
しかし、劇中の特別な『黄色いアサガオ』以外の普通のアサガオにも毒性は確認されています。
アサガオの毒の症状は嘔吐・下痢・腹痛など。
その毒を利用して、粉末状にし下剤として使用されることもあるそうです。
ただしWikipediaには
種子は煮ても焼いても炒っても効能があるものの毒性が強く、素人判断による服用は薦められない。
アサガオ―Wikipedia
とあるので、下剤として服用するのは辞めた方が良いでしょう。
黄色いアサガオは存在しないの?
「夢幻花」の劇中で『黄色いアサガオは現存しない』『人工的な開花もできない』とされていました。
しかし、2021年の現実では黄色いアサガオは現存しています!
アサガオのWikipediaを調べたところ
2014年に基礎生物学研究所、鹿児島大学、サントリーグローバルイノベーションセンターの合同チームが、キンギョソウから黄色色素オーロンの遺伝子を導入することで黄色い朝顔を開花させることに成功した。
アサガオ―Wikipedia
という衝撃的な一文を目にしてしまいました。
「夢幻花」が刊行したのは2013年。
まさか、その翌年・2014年に黄色いアサガオの開花に成功しているとは・・・。
ちなみに、この黄色いアサガオの開花に成功した基礎生物学研究所のHPでは、実際に黄色いアサガオの写真を確認できます。
確認した黄色いアサガオは、はっきり「黄色」というより、濃いめのクリーム色といった色合いでした。
しかし、淡い色合いで庭先に咲いていたら心が和みそうな優しい雰囲気です。
事実は小説より奇なりと言いますが、本当に事実が小説を超えていました。
その分、小説では心躍るミステリーが楽しめます。
ジメジメした雨の季節にピッタリなさわやかなミステリーを「夢幻花」で堪能してみてくださいね。