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「虚ろな十字架」東野圭吾 過去に背負った罪と今の事件のつながりを通して見えた真実とは?

東野圭吾さんの小説「虚ろな十字架」の感想です。

娘を失い、別れた妻まで殺害された主人公が、事件の真相に迫るミステリー・サスペンスです。

過去と現在がすべてつながったときに、浮かび上がった悲しい真相とは?

読み終わった後に、タイトル「虚ろな十字架」の意味が胸に残る一冊です。

「虚ろな十字架」基本情報
  • 作者:東野圭吾
  • 対象:中学生以上
    • 性的な描写ややあり
    • グロテスクな描写ややあり
  • 2014年5月に光文社より刊行
  • 2017年5月に文庫化

「虚ろな十字架」について

「虚ろな十字架」は東野圭吾さんのミステリー・サスペンス小説です。

テーマの1つは『日本の死刑制度』。

東野圭吾さんらしい社会派ミステリーでした。

そんな「虚ろな十字架」のあらすじを掲載します。

中原道正・小夜子夫妻は一人娘を殺害した犯人に死刑判決が出た後、離婚した。数年後、今度は小夜子が刺殺されるが、すぐに犯人・町村が出頭する。中原は、死刑を望む小夜子の両親の相談に乗るうち、彼女が犯罪被害者遺族の立場から死刑廃止反対を訴えていたと知る。一方、町村の娘婿である仁科史也は、離婚して町村たちと縁を切るよう母親から迫られていた―。

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11年前に8才の一人娘を強盗犯によって殺害された主人公・中原道正。

最愛の娘を殺された中原と妻の小夜子は、犯人を死刑にするために出来うるすべてを捧げました。

そして死刑判決を勝ち取り、その後離婚。

物語はそんな中原の元妻・小夜子が殺害されたところから幕を開けます。


何の罪のない愛娘を殺害され、さらに元妻も殺害された中原はあまりにも不幸です。

しかし、そんな不幸にも正面から立ち向かっていく強さが中原にはありました。

そしてその強さは殺されてしまった小夜子も持ち合わせていたものでした。

小夜子の死の真相を少しずつたぐり寄せ、辿り着いた結末は悲しいものでした。

それでも、十字架を背負うことで救われる、前に進める解決しかない場合もあるのだと考えさせられました。

日本の死刑制度について

(あらすじにも書かれていますが)中原の娘を殺害した犯人は死刑になります。

しかし、わたしはおぼろげな知識で

人を2人以上殺害しないと死刑にはならないのでは?

と思っていました。

そこで、少し調べてみたところ『被害者が1人で死刑が確定した事例』がいくつもあることが分かりました。

ただ、その場合でも前科があったり、犯行が極めて残虐だったりとさまざまです。

「虚ろな十字架」の場合は、強盗殺人で無期懲役を受けたものの仮釈放で出所していた最中の犯行でした。

そのため死刑判決が下されても不自然ではないようです。

※参考 日本における死刑-Wikipedia

「虚ろな十字架」感想

「虚ろな十字架」の感想です。

物語の核心に触れる内容もあるので、未読の方はご注意ください。

プロローグからの距離

主人公はペット向け葬儀会社の社長である中原道正。

しかし、物語は井口沙織という中学生の淡い恋からスタートします。

1学年上の男子生徒に恋をしていた沙織は、ある日たまたまその男子生徒と顔見知りの仲に。

徐々に仲を深め、男子生徒からの告白されたところでプロローグは終了します。

告白シーンから、まったく接点のない男性がメインに据えられるので、最初は若干動揺しました。

また、プロローグが『いつ』の時期で『どこで』起こったことなのかも物語の途中まで分かりません。

沙織たちがどのようにして中原のストーリーに絡んでくるのか。

高い確率で悪い関係性だろうと思われたので、少しヒヤヒヤしながら読み進めました。

当然ですが、沙織は後に登場します。

沙織の再登場は、プロローグからは思わず目を覆いたくなるほど残酷なものでした。

その残酷さは、ある人物の対比によってより鮮明に浮かび上がります。

プロローグからあまりにも離れた場所に来てしまった2人。

そんな2人と現在の事件とのつながりを中原は解き明かしていくことになります。

真実を知るのが少し怖いという部分もありましたが、事実の点と点がつながり1つの大きな絵になっていく様を体験できたので、ミステリーの醍醐味を存分に味わえたかと思います。

罪人が背負うさまざまな『十字架』

「虚ろな十字架」にはさまざまな罪人たちが登場します。

罪の種類はすべて殺人。

けれども、殺人を犯した動機・理由はそれぞれまったく異なります。

罪を犯した動機・理由は違っていても犯した罪の種類が同じなら罰も同じ。

この「虚ろな十字架」はそんな今の刑法に疑問を投げかけるような小説でもありました。

ただ、小説中にも書かれていましたが、異議を唱えたところでどうすれば良いのか、その答えは出ていません。

そう簡単に出せるものではありません。

裁判は罪を犯した動機・理由をもとに罪の重さを決めるものですが、裁判ごとに一から罪に対する罰を決めていたらキリがありません。

そのため刑法により大まかな罪ごとの罰が決められています。

しかし、それでは1つとして同じものがない罪に対して完璧に対応できているとは言えません。

そんな相容れない現状に対し「虚ろな十字架」が考えるきっかけとなっていると思いました。

少なくとも、わたしには調べて考えるきっかけになっています。

『十字架』の背負い方もさまざま

中原の娘を殺害した犯人は、2人の人間を殺害し服役していた過去がありました。

2人の人間を殺害しても、情状酌量により無期懲役。20数年後に出所し、すぐに2度目の犯行を起こしています。

「最初の事件で死刑になっていれば娘の命が失われることはなかった」

その思いから、中原の元妻・小夜子はライターとして戦いを続けていました。

しかし、小夜子の戦いは、娘を殺害した犯人が最初の犯行で反省していればしなくて済んだ戦いです。

犯人が服役したにも関わらず反省しなかったために、起きた犯罪です。

そう考えると、死刑によって救われた命があったのでは、と考えずにはいられませんでした。

また、法的な罰を受けなくても、犯した罪を反省し続けた人物もいます。

けれども、罰を受けなかったことにより、その後の人生が狂ったと言っても過言ではありません。

またやはり、彼らが罪を犯した時点で罰を受けなかったことにより、また新たな犠牲が生まれたとも言えます。

犯した罪を反省することを『十字架を背負う』と言いますが、十字架の背負い方は背負う者によってそれぞれです。

背負う者によって正しい十字架の背負い方があると思いますが、この「虚ろな十字架」はその十字架の背負い方を間違えた人々が引き起こした悲劇の連鎖とも言えます。

答えが出ない問いだからこそ、考え続けなかればならないのだと感じました。


登場人物の過去が明かされるたびに、少しずつ見えてくる悲劇の全容が痛々しかったです。

元妻・小夜子の死をきっけかに、小夜子の戦いを引き継ぐ形になった中原。

その戦いの行く末は必見です。

ここまで東野圭吾さんの小説「虚ろな十字架」の感想でした。

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