東野圭吾さんの小説「クスノキの番人」の感想です。
神社の大きなクスノキへ祈りに訪れる人々の思い。
そんな人々の思いの瞬間に立ち会いながら成長していく青年の姿を描いた小説です。
ファンタジーとミステリーの融合でもあり、感動の人間ドラマも楽しめる贅沢な1冊でした。
- 作者:東野圭吾
- 対象:小学校高学年~
- エログロ描写なし
- 2020年3月に実業之日本社より刊行
「クスノキの番人」あらすじ
「クスノキの番人」は2020年に刊行された東野圭吾さんの書き下ろし長編小説です。
東野圭吾さんらしいミステリー要素もありつつ、超常現象が起こるファンタジーでもあり、さらに感動の人間ドラマもあるという贅沢な1冊でした。
そんな「クスノキの番人」のあらすじの一部を掲載します。
その木に祈れば、願いが叶うと言われているクスノキ。
クスノキの番人―Amazon.co.jp
その番人を任された青年と、クスノキのもとへ祈念に訪れる人々の織りなす物語。
『秘密』『時生』『ナミヤ雑貨店の奇蹟』に続く新たなエンターテインメント作品。長編書き下ろし。
主人公は直井玲斗という青年。
正確な年齢は書かれていませんが20代前半の青年です。
そんな玲斗の身の上が↓になります。
不当な理由で職場を解雇され、その腹いせに罪を犯し逮捕されてしまった玲斗。同情を買おうと取調官に訴えるが、その甲斐もなく送検、起訴を待つ身となってしまった。そこへ突然弁護士が現れる。依頼人の命令を聞くなら釈放してくれるというのだ。依頼人に心当たりはないが、このままでは間違いなく刑務所だ。そこで賭けに出た玲斗は従うことに。
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高校を卒業してから、職を転々としてきた玲斗。
仕事を辞めた理由は、いずれも不運で、間が悪かったとしか言えないものばかり。
さらに不当解雇の腹いせに盗みを働き、あっさり警察に捕まってしまう運のなさ。
盗みを働くのは悪いことではありますが、経緯が経緯だったので同情しました。
人生のどん詰まりと言える状態の玲斗でしたが、そんな玲人に救いの手が差し伸べられます。
依頼人の待つ場所へ向かうと、年配の女性が待っていた。千舟と名乗るその女性は驚くことに伯母でもあるというのだ。あまり褒められた生き方をせず、将来の展望もないと言う玲斗に彼女が命令をする。「あなたにしてもらいたいこと――それはクスノキの番人です」と。
クスノキの番人―Amazon.co.jp
玲斗を助けたのは柳澤千舟という年配の女性でした。
千舟は助けた代わりに、ある仕事をするよう命じます。
その仕事とは『クスノキの番人』でした。
『クスノキの番人』とは?
玲斗がほぼ強制的に行わされることになった『クスノキの番人』とは、月郷神社にある大きなクスノキの管理人でした。
その仕事内容は、クスノキの掃除、管理。
あまりにも大きく、パワースポットとして有名なクスノキには観光客が多く訪れるのでその対応も含まれます。
そして、最も重要な仕事が、クスノキへ『祈念』に来る人たちへの対応でした。
クスノキへの祈念について
『クスノキの番人』として、祈念に来る人々への対応をすることになった玲斗。
クスノキへの祈念は、夜に、クスノキの幹に空いた穴の中で行われます。
祈念の専用に作られたろうそくに火を点け、1~2時間ほど、一心に祈り続けるのです。
「番人として仕事をしながら理解しなさい」と言われた玲人にとって、クスノキへの祈念は当初、謎の行為でしかありませんでした。
このクスノキへの祈念が謎の行為でしかないのは、わたしたち読者も同じ。
玲斗が番人として経験を重ねるうちに、一緒にクスノキへの祈念について理解できるので、祈念のシステムが明らかになったときにすんなり受け入れられている自分がいました。
クスノキへの祈念のシステムはいわゆる超常現象で、スピリチュアルなもの。
けれども、どこか現実味がありそうな、ロマンチックな設定でもありました。
祈念に来る人々の秘密
クスノキへの祈念に訪れる人々には、当然ながら、各々に事情がありました。
クスノキの番人でしかない玲斗にはその事情を聞き出す権限はありません。
しかし祈念に訪れる父親を疑う大学生・佐治優美との出会いにより、無理やり巻き込まれいきます。
さらに、何度訪れても祈念が上手くいかない、老舗和菓子屋の跡取り息子に関しても、玲斗は大きな役割を果たすことに。
「クスノキの番人」では、クスノキへの祈念の謎の他に
- 優美の父親・佐治寿明の祈念の理由&不倫疑惑
- 上手くいかない老舗和菓子屋の跡取り息子の祈念
という2つの秘密が交わり、謎が深まっていきます。
謎がいくつも出てくる「クスノキの番人」ですが、まったく混乱せずに読み進められるのも魅力でした。
千舟との関係
玲斗にとって、玲斗を『クスノキの番人』に任命した千舟は伯母でした。
しかし、伯母といっても千舟と玲斗の母親は異母兄弟で、20歳も年が離れていました。
そのため、玲斗と千舟の関係性は甥・伯母というよりも、孫と祖母といった雰囲気。
ただし孫に甘々なおばあちゃんではなく、超厳しいおばあちゃんんでしたが。
玲斗は千舟から『クスノキの番人』のことだけでなく、生き方そのものといった人生全般について学んでいきます。
本人は軽く語っているものの過酷な家庭環境で育った玲斗は、学はないものの聡明です。
千舟が教えることをしっかり身に付け、自分に活かせる才能を持っています。
さらに、達者な口で周囲と渡り合うシーンは読んでいるこちらもスッキリとする展開でした。
千舟は自らの才覚で道を切り開き、女性が活躍しにくい時代から男性と互角に渡り歩いてきた人。
そんな千舟の格好良さは、この「クスノキの番人」の大きな魅力の1つであったと思います。
また、千舟が過去に手がけた旅館やビジネスホテルの描写などは、映画化され大ヒットした「マスカレードホテル」の作者でもある東野圭吾さんらしい詳細さでした。
祈念に来る人々と同じく、千舟もある秘密を抱えていました。
その秘密に玲斗が気付き、また千舟の思いを知ったときに訪れるラストは感動必至です。
この「クスノキの番人」には数組の家族が登場します。
家族の姿はさまざまですが、クスノキへの祈念に関わる家族はみな自分の家族に思いを秘めていました。
ファンタジーでもありミステリーでもある「クスノキの番人」ですが、一番の要素は「家族」がテーマの心温まる人間ドラマだったのだと実感します。
誰にでもオススメできる小説「クスノキの番人」の感想でした。
<ネタバレあり>クスノキへの祈念のシステム
「クスノキの番人」でのクスノキへの祈念のシステムについてまとめていきます。
まず『祈念』そのものについて。
祈念とは、クスノキに心の中にある思い『念』を預け、預けられた念を別の人が受け取ること。
念を預けることを『預念』、受け取ることを『受念』と言います。
祈念では心の中にある思いすべてを受け渡しできますが、本当は知られたくない思いも伝わってしまうのが難点。
人間であらば隠しておきたい秘密の1つや2つはあるもの。
そのすべてがつまびらかになる、というのはややリスキーですよね。
次に、祈念を行う日。
祈念を行う日は、念を預ける『預念』では新月、念を受け取る『受念』では満月となります。
ただ、厳密に新月の日、満月の日でなくてはならないわけでなく、力は落ちるものの前後数日間は可能となります。
さらに、受念できる人の条件。
受念できる人は、預念した人の血縁者のみ。
この血縁者と言っても、
- 四親等がギリギリ
- 預念した人との思い出が深い
という条件も加わります。
四親等以内であると、
- 両親
- 祖父母、兄弟姉妹、子ども
- おじ・おば、孫、曾祖父母、甥姪
- いとこ、大おじ・大おば、高祖父母、甥姪の子ども、玄孫
までが範囲となります(数字は親等です)。
こう見ると、けっこう範囲が広いですね。
ただし、この血縁者に、預念した人と思い出が深いという条件が加わるので、三親等までが現実的な範囲内だと思われます。
また、この2つの条件を満たしたとしても受念できない場合もあるとのこと。
こればっかりは、クスノキ次第で、人間がどうこうできる力の範疇を超えているので、仕方ないと言えますね。
ここまで「クスノキの番人」の祈念について、ネタバレありでまとめてみました。