時間がないときでも気軽に読めるのが魅力の短編集。
連作ではない、さまざまなジャンルの話を楽しめるのが嬉しいですよね。
今回は、独特な世界観から高い人気を誇る、わたしも大好きな恩田陸さんの小説「歩道橋シネマ」をご紹介します。
短いながらも細かいところまで凝られた短編の数々をぜひ堪能してください。
- 作者:恩田陸
- 対象:中学生~
- 性的な描写なし
- グロテスクな描写ややあり
- 2019年11月に新潮社より刊行
- 収録作は18短編+あらすじ
- 2013~2019年の雑誌掲載が初出
「歩道橋シネマ」あらすじ
「歩道橋シネマ」は恩田陸さんの短編小説です。
同作には18編の短編とあとがきが収録されています。
短編は短いものでは2ページ、長くても30ページ強という長さ。
ちょっと時間がある、というときに1編、2編を気軽に読める長さです。
すべて独立した短編なので、時間が空いてもどこからでも読めるのが短編集の魅力ですね。
そんな「歩道橋シネマ」のあらすじを掲載します。
とある強盗殺人事件の不可解な証言を集めるうちに、戦慄の真相に辿り着いて……(「ありふれた事件」)。幼なじみのバレエダンサーとの再会を通じて才能の美しさ、酷薄さを流麗な筆致で描く「春の祭典」。
密かに都市伝説となった歩道橋を訪れた「私」が記憶と、現実と、世界の裂け目を目撃する表題作ほか、まさにセンスオブワンダーな、小説の粋を全て詰め込んだ珠玉の一冊。
恩田陸の“最新型”がここにある。
歩道橋シネマーAmazon.co.jp
収録されている短編は、
- SF
- ホラー
- ミステリー
の3ジャンルのいずれかに分類されます。
どれも面白いですが、ホラーでなくてもどの作品もゾクゾクする怖さがあるのが特徴です。
好きな作品とその感想
18の短編すべてを取り上げるのも長々としてしまうので、読んで特に好きだった作品の感想を書いていこうと思います。
球根
シンプルな学園ホラーです。
あとがきで未完成の作品のスピンオフとして書かれた作品と、恩田さんが語っています。
1人の生徒の台詞によりストーリーが展開していきます。
ホラーを読みなれている方だと、冒頭で話の結末が分かってしまうかもしれません。
しかし、不思議な学園の雰囲気が魅力的で、早く本編の方が読みたいと思わせる作品でした。
逍遙
近未来SFの世界観で繰り広げられるミステリー作品です。
散歩中に落とした懐中時計の行方を捜すうちに、ある事実に辿り着くというストーリー。
見晴らしが良い森の小径のどこかで落としたはずなのに見つからない懐中時計。
その行方を恩田陸さんの過去作「消滅」にも登場したキャラクターたちが探します。
ちなみに、タイトルの「逍遙」は『気ままにあちこちを歩き回ること』という意味。つまり、散歩ですね。
「リモート・リアル(RR)」という意識だけで世界中のどこにでも行ける架空の技術がトリックの鍵となっています。
現代のVR技術が進化したらこんな未来もあり得そう、と思える技術でした。
SFらしいさっぱりとした世界観ながら、ブラックコメディ的なオチで締められているのも良かったです。
トワイライト
4ページ弱の短い作品です。
日本語の面白さ、日本の方言の面白さを実感できるお話です。
シリアスな始まりから一転、ほのぼのした最後に拍子抜けしました。
「大どんでん返し」というお題で書かれた短編ということですが、確かにどんでん返しの展開です。
北関東生まれ・北関東育ちのわたしにとって、関西弁はテレビの中の芸人さんが使う言葉といった印象です。
だからなのか、関西弁を聞くと普通の会話でも面白く聞こえます。
さらに、文字に書き表すと丸っこい字ばかりなので特に柔らかい印象を受けます。
そんな気の抜けた感じの関西弁の面白さを体感しました。
柊と太陽
クリスマスが来るたびに思い出しそうな作品。
舞台背景や時代の詳しい説明はありませんが、未来の日本を描いた話と思われます。
恩田陸さんの歪んだクリスマス観は可笑しくも大いに同意できました。
ありふれた事件
とある事件の関係者へのインタビューをまとめたドキュメンタリー風のミステリーです。
上にあらすじが掲載された作品でもあります。
恩田陸さんの過去作「Q&A」と雰囲気が似ている作品でした。
インタビューを読むうちに謎すぎる浮かび上がってくる事件の真相。
あまりにも狂った事件ですが、現実にも起こりそうな変なリアリティがありました。
ラストは完全にホラー。
結末のインパクトが強く、しばらく考えましたが頭が混乱したのでやめました。
歩道橋シネマ
表題作であり、最後に収録されている短編でもあります。
この作品は現実の中に隠れたファンタジーといった感じでした。
怖い作品・不気味な作品などいろいろ収録された短編集でしたが、最後にこの「歩道橋シネマ」が掲載されていることで静かな余韻が味わえました。