「愚かな薔薇」恩田陸 吸血鬼ファンタジー&SFサスペンスが織りなす少女の成長ストーリー

白い薔薇 ホワイトローズ 小説
Анна ИларионоваによるPixabayからの画像

恩田陸さんの小説「愚かな薔薇」の感想です。

祭が近いのどかな日本の田舎町・磐座にて、14才の少年少女を集めて行われる不思議なキャンプ。

そのキャンプの目的、そして磐座や世界に隠されたある秘密が明らかになるにつれ、物語は予想ができない方へ進んでいきます。

吸血鬼ファンタジー×SFサスペンス、そして少女のひと夏の冒険を描いた大満足の大長編小説です。

「愚かな薔薇」基本情報
  • 作者:恩田陸
  • 対象:中学生~
    • 性的な描写なし
    • グロテスクな描写あり
  • 2021年12月に徳間書店より刊行
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「愚かな薔薇」について

「愚かな薔薇」は恩田陸さんの小説です。

主人公は14才の少女で、舞台は日本の夏の田舎町。

という設定だけ見ると、少女のひと夏の冒険、みたいな心躍るストーリーを想像してしまいますよね。

まあ確かに大枠では『少女のひと夏の冒険』ではありますが、それだけでは済まないのが恩田陸ワールドです。

ジャンルは

  • SF
  • ファンタジー
  • 青春(ジュブナイル)
  • サスペンス

と多岐に亘り、とにかく退屈しません。

そんな「愚かな薔薇」のあらすじを掲載します。

夏が近づく季節、母方の故郷・磐座を訪れた奈智。十四歳になると参加することになる二か月に及ぶ長期キャンプは、「虚ろ舟乗り」の適性を見極めるためのものだった。キャンプの本当の目的を知らないまま参加した奈智は、磐座の地や両親の死にまつわる因縁、謎めいた人物たちに翻弄されていく……。恩田陸が放つ、吸血鬼小説の新機軸! SF長編。

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主人公は14才の少女・奈智。

「虚ろ舟乗り」という職業に就くため、同じ14才の少年少女たちとともに磐座(いわくら)という地を訪れるところから物語はスタートします。

磐座は奈智にとって母方の故郷でもあり、幼い頃は頻繁に訪れていた地でもあります。

そんな懐かしさを覚えつつも、どこか不穏な雰囲気の中、この「愚かな薔薇」は徐々に進んでいきます。

何も知らない少女が、自らに秘められた力に目覚める。

子ども向けのファンタジーのような親しみやすい世界観も魅力の一つでしょう。


ちなみに、この「愚かな薔薇」は600ページ弱の大長編

単行本の厚みは3センチ超えと持ち運びに躊躇する、いや持ち運べないレベルですね。

しかし、ビックリするほどあっという間に読めるのが特長でもあります。

また、ページ数は多いものの登場人物は少ないので混乱せずに読みやすいのも嬉しいポイントです。

タイトル「愚かな薔薇」の意味

この小説のタイトル「愚かな薔薇」は、作中の「虚ろ船乗り」を指す言葉です。

虚ろ船乗りになると年を取らず、ある特殊な方法でしか死ねない身体となる。

いつまでも身体が朽ちない、つまり枯れない。

枯れる薔薇は賢い薔薇、しかし枯れない薔薇は「愚かな薔薇」。

この「虚ろ船乗り=愚かな薔薇」という言葉が、虚ろ船乗りの不安定な立場を表しています。

また、タイトルの下には英語で『Rose that blooms through all eternity』と書かれています。

この『Rose that blooms through all eternity』は訳すと「永遠に咲く薔薇」。

ストレートに「虚ろ船乗り」を表していると言えますね。

賢いけどすぐに枯れてしまう薔薇と、愚かだけど永遠に咲く薔薇。

どちらが幸せなのか、それがこの「愚かな薔薇」のテーマの一つでもありました。

『磐座』は地名ではない?

奈智たち「虚ろ船乗り」のキャンプ生たちは『磐座(いわくら)』という地に集められ、不思議なキャンプを行います。

この『磐座』はもともと地名ではありません。

Wikipediaによると『磐座』は

古神道における岩に対する信仰のこと。あるいは、信仰の対象となる岩そのもののこと。

と説明がありました。

小説冒頭に岩に浮き彫りにされた虚ろ船の彫り物が登場し、その岩の彫り物にキャンプ生たちが手を合わせるという描写がありますが、まさに『磐座』の説明そのものですね。

ただ、小説内で岩への信仰が登場するのはこの冒頭の場面のみ。

しかし『磐座』という言葉が「岩への信仰」を表す言葉と知っていると、この「愚かな薔薇」の見え方が変わってくるかもしれません。


何を書いてもネタバレになりそうなので、「愚かな薔薇」の感想・あらすじは↓に置いておきます。

読む前に余計な情報は欲しくない!という方は、下のネタバレあり感想にご注意ください。

ここまで「愚かな薔薇」の基本情報でした。

ここからは「愚かな薔薇」に関するネタバレがあります。

【ネタバレあり】「愚かな薔薇」感想

ネタバレありの「愚かな薔薇」の感想です。

吸血鬼が宇宙飛行士に最適な理由

もうすぐ地球が太陽に飲み込まれるので、このままだと人類が滅亡してしまう・・・。

早急に人類が移住できる星を探さなければならない!

そのために養成されるのが『虚ろ船乗り』と呼ばれる存在。

虚ろ船乗りは不老長寿。

人の一生よりも長い時間がかかる星間移動でも生き延びられるという特徴を持ちます。

また、食料はわずかな血液だけで十分という燃費の良さ!

不老長寿で血液を食す、虚ろ船乗りはいわゆる「吸血鬼」です。

花緒
花緒

言われて考えると、確かに吸血鬼は宇宙飛行士&宇宙開拓にうってつけの人材と言えますね。

ただ「愚かな薔薇」の吸血鬼=虚ろ船乗りたちはもともと虚ろ船乗りの遺伝子を持って生まれ、その力をキャンプによって『変質』し覚醒させられる、先天性の吸血鬼でした。

無類の吸血鬼好きといって憚らないわたしですが、生まれ持った吸血鬼という珍しい設定には興奮しました。

さらに、吸血鬼たちはもともと地球外からきた宇宙人だった、というのも新たな発想です。

吸血鬼×SFという奇抜な設定は、正直大好物だったので、読んでいてとても楽しかったです。


吸血鬼もので一番期待してしまうのが、吸血鬼となった人物の吸血シーンではないでしょうか?

「愚かな薔薇」にも、もちろんその吸血シーンがあります。

ただ、この「愚かな薔薇」で鮮明に描かれているのは吸血している吸血鬼側の意識ではなく、吸血されている人間側の意識でした。

人生で初めて吸血された城田浩司の意識は色彩豊かで美しい描写で溢れていました。

吸血シーン=甘美、というイメージが強いですが、この吸血されるシーンは歓喜や生命力を感じさせるもので、その点も面白かったです。

一方、主人公・奈智の初めての吸血シーンはあっさりしていました。

「愚かな薔薇」の時代について

当初「愚かな薔薇」は現代の日本が舞台だと思って読み進めていました。

しかし、途中で「愚かな薔薇」の世界=地球は『1万2500年後に太陽に飲み込まれて消滅する』という、現在よりも遙かに遠い未来の話であることが明かされます。

ちなみに、Wikipediaの「地球の未来」によると

現在から40億年後、地表温度の上昇により暴走温室効果が引き起こされ、地球表面は高温によって融解する。この時点で地球のすべての生命が絶滅することになる

とのこと。

小説内でも『最後の1500年はもう人は(地球に)住めない』とあるので、この「愚かな薔薇」の地球は今から約40億年後の地球であると思われます。

ここで疑問なのが「40億年後の地球に人類は生きているのか?」ということ。

奈智たちがいるので「生きている」だろうと思いますが、現在に生きるわたしたちのような姿・形をしているとは限りませんよね・・・。

「愚かな薔薇」では人の外見の様子がそこまで詳細に書かれていなかったので、実は今を生きるわたしたちとは大きく異なる部分があったのかもしれません。

そもそも、宇宙人=吸血鬼の遺伝子を持って生まれた人類もいる、という時点で現在の人類とは大きく異なっていると言えます。

そういった点でも謎が多く、上手く煙に巻かれていると感じました。

また、思い返してみると、この「愚かな薔薇」の世界には携帯電話・スマートフォンをはじめ、テレビなどの電子機器が登場していなかった気がします。

しかし電話やアイロンなどは登場し、自動車もあり、また冒頭で奈智は電車に乗って岩倉の地を訪れます。

携帯電話などが書かれていないのは偶然なのか、それとも意図的なのか。

余分すぎるくらいに深読みできるのも、この「愚かな薔薇」の特徴でしょう。

日本の古き良き田舎

未来のSFにも関わらず、「愚かな薔薇」の舞台は日本の原風景とも言える田舎町。

祭が近いことがあり熱気があるものの、オフシーズンは静かな街であることが想像できます。

その自然の描写は、恩田陸さんらしい鮮明さで、やはり活き活きしていました。

また、田舎の人間模様のドロドロ感もやや味わえるのもリアルで良かったです。

解決されなかったこと

「愚かな薔薇」で最後まで解決されなかったこと、それは『木霊の正体は結局誰だったのか』ということです。

最後良い感じでまとまってめでたしめでたし・・・、になってない!

猪の首を門に飾ったり、犬を八つ裂きにしり、祭の提灯が河原に投げ捨てたりした木霊。

大臣への血切りの最中に大臣・警備の人間を殺害してしまった結衣も木霊でしたが、小説内でははっきりと「結衣の他にも木霊がいる」と書かれていました。

しかし、その木霊の正体は結局明かされていません。

おそらく、何度も匂わせがあった主人公・奈智が木霊の正体なのだろうと思われますが、確証はありません。

うやむやにされた気がしますが、恩田陸さんの小説ではよくあることですし、この「愚かな薔薇」は比較的モヤモヤが少なかったので問題はありません。

花緒
花緒

考えたらキリがないので、ここまでで失礼します。

ここまで、恩田陸さんの小説「愚かな薔薇」の感想でした。

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