辻村深月さんの小説「レジェンドアニメ!」の感想です。
大ヒットを記録した「ハケンアニメ!」のスピンオフ短編集がついに一冊の小説として登場!
アニメを生み出す人たち・アニメに関わる人たちの情熱と奮闘に再び触れられます。
- 作者:辻村深月
- 対象:小学校高学年~
- エログロ描写なし
- 2022年3月にマガジンハウスより刊行
- 「ハケンアニメ!」のスピンオフ続編
「レジェンドアニメ!」について
「レジェンドアニメ!」は辻村深月さんの小説です。
この「レジェンドアニメ!」は、アニメーション業界を描き、映画化するほど人気を博した「ハケンアニメ!」のスピンオフ短編集です。
「レジェンドアニメ!」だけでも十分面白いですが、キャラクターたちの関係性などを知るためにも、前作「ハケンアニメ!」を読んでおいた方が良いでしょう。
まずは、そんな「レジェンドアニメ!」のあらすじを掲載します。
映画『ハケンアニメ!』公開記念
『ハケンアニメ!』スピンオフ小説集誰にだって負けたくない人がいる!
ともに働きたい人がいる!夢と希望。情熱とプライド。愛と敬意――
アニメ制作に情熱を傾ける仕事人たちの
熱血エンタテインメント『ハケンアニメ!』には、
心震えるさらなる物語が隠されていた!◆九年前のクリスマス
◆声と音の冒険
◆夜の底の太陽
◆執事とかぐや姫
◆ハケンじゃないアニメ
◆次の現場へ書き下ろしを含む6作品を完全収録。
レジェンドアニメ!―Amazon.co.jp
全国の書店員にも愛された『ハケンアニメ!』の世界が再び!
「レジェンドアニメ!」には6つの短編が収録されています。
いずれも主人公が異なり、前作「ハケンアニメ!」とは違った視点からアニメ業界について描かれているのが特長です。
音響監督やフィギュアの造形師など、一般の方にはあまり馴染みのない職種をクローズアップしているのも面白かったです。
「レジェンドアニメ!」感想・あらすじ
「レジェンドアニメ!」の各話感想・あらすじです。
九年前のクリスマス
「ハケンアニメ!」の主人公だったプロデューサー・有科香屋子、監督・齋藤瞳、アニメーター・並澤和奈の3人が登場。
それぞれの『九年前のクリスマス』を描いています。
9年前には「ハケンアニメ!」で香屋子とタッグを組んだ王子千晴監督のデビュー作「光のヨスガ」が放映されていたタイミング。
香屋子はそんな「光のヨスガ」に救われ、和奈は心躍らせる。
一方で瞳はまだアニメに出会っていませんでした。
そんな三者三様のクリスマスを経て、9年後出会うことになる3人のプロローグ的なお話でした。
声と音の冒険
音響監督・五條正臣(ごじょうまさおみ)が主人公。
「ハケンアニメ!」で描かれた時間の9年前となる、王子千晴監督との出会いが描かれたお話です。
前作でも登場した五條は、王子が自ら音響監督に起用するほど信頼を置いている昔なじみの人物、として描かれていました。
そんな五條と王子の間にどんな出来事があったのか。
アニメ業界に飛び込んだばかりの王子の葛藤と、そんな王子を支えた五條との関係の原点は必読です。
「ハケンアニメ!」の物語に深みを与えるエピソードでした。
夜の底の太陽
監督・齋藤瞳と同じ団地に暮らす小学生・冨田太陽が主人公。
「ハケンアニメ!」の『第二章 女王様と風見鶏』にも登場した太陽の背景が描かれるお話です。
勉強に関係がないもの、アニメやマンガが禁止されている家庭で育っている太陽。
前作の通っていた塾をサボったというエピソードの背景に何があったのかが描かれます。
小学生の家庭や学校での悩み、という描写は、作者の辻村さんにとっては他作品で多々手がけているテーマなので得意とするところでしょう。
ジワジワと辛い描写に胸が痛みました。
しかし、そんな太陽にとって、やや似通った境遇で育った瞳が救いの存在となったことがよかったです。
太陽と同じ世代の小学生にも、大人にも響くメッセージが込められた話だと思いました。
執事とかぐや姫
フィギュア会社・ブルト(ブルー・オープン・トイ)の逢里哲哉(おうさとてつや)が主人公。
「ハケンアニメ!」では企画部長だった逢里が、まだ広報だった頃のお話です。
仕事で大失敗して落ち込んでいた逢里は、憧れのフィギュアの造形師・鞠野カエデと運命的な出会いを果たします。
そこから逢里は鞠野と一緒に仕事がしたい一心で猛アプローチ。
「ハケンアニメ!」につながるパートナー性がいかに培われたのかが描かれています。
ハケンじゃないアニメ
収録の短編のうち唯一書き下ろしの短編です。
主人公は「ハケンアニメ!」に登場していない、初登場の和山和人。
アニメ制作会社でプロデューサーとして働く和山が担当しているのは、放送開始から30周年を迎えるいわゆる長寿アニメ。
読んでいるとおそらく気付きますが「ドラえもん」がモデルです。
辻村深月さんは過去に劇場版の脚本も担当しているほど「ドラえもん」、ならびに藤子・F・不二雄さんのファンでいらっしゃるので、この設定にしたのでしょう。
という話はさておき、和山は自身が『ハケン』にはならないアニメを手がけていることに複雑な思いを抱いていました。
自分も観てきた長寿アニメを担当する誇りと、深夜アニメのようなヒリヒリした世界への憧れ。
そんな和山の葛藤と成長が描かれたお話でした。
多くの方が思い浮かべる、昔ながらの子ども向けアニメ。
その現場で働く方たちの、『覇権アニメ』を目指す方たちとは違う戦いの様子は、収録作の中で一番読み応えがあり面白かったです。
次の現場へ
これまで登場したキャラクターのその後が描かれたお話です。
ある2人の登場人物の結婚式からはじまり、王子監督の次回作など、まさに『次の現場へ』というタイトルに相応しいお話でした。
個人的には、辻村深月さんの初期作である小説「スロウハイツの神様」のキャラクターが登場したのが嬉しかったです。
その「スロウハイツの神様」にも登場し、「ハケンアニメ!」「レジェンドアニメ!」両方にゲスト登場している小説家のチヨダ・コーキ。
彼が書いたとされる「V.T.R.」は辻村深月さんのてによって書籍化もされています。
かつて読んでいた作品が形を変えて登場してくれるので、辻村深月ファンにとっては溜まらないのもこの「レジェンドアニメ!」の魅力ですね。
スピンオフ短編集なので、前作を読んでいれば気軽に楽しめる一冊となっています。
前作「ハケンアニメ!」のファンは必読です!
ここまで「レジェンドアニメ!」の感想でした。