アガサ・クリスティの小説「ミス・マープル最初の事件 牧師館の殺人」の感想です。
名探偵ミス・マープルが初めて登場する長編の新訳版が登場。
平和なセント・メアリ・ミード村の牧師館で起きた殺人事件をミス・マープルが解決します。
- 作者:アガサ・クリスティ(Agatha Christie)
- 訳者:山田順子(創元推理文庫)
- 対象:中学生~
- エログロ描写はなし
- 1930年にイギリスで初版が刊行
- 2022年7月に創元推理文庫より新訳版が刊行
- 『ミス・マープル』シリーズ第1作目
「牧師館の殺人」について
「ミス・マープル最初の事件 牧師館の殺人」はアガサ・クリスティのミステリー小説です。
「ミス・マープル最初の事件」というタイトルの通り、アガサ・クリスティが生み出した名探偵ミス・マープルが初めて登場する単行本となります。
※ミス・マープルが初めて登場したのは別の作品です。詳しくは↓で説明しています。
上品な物腰ながら、警察官をもしのぐ推理力を持つミス・マープルの活躍を描いたこの「牧師館の殺人」。
まずは、そんな「牧師館の殺人」のあらすじを掲載します。
セント・メアリ・ミード村の牧師館で治安判事が殺害された。被害者は厳しい性格で、恨みをもつ人間には事欠かない。だが殺すまでとなると……。とはいえ村には謎めいた美しい婦人や魅力的な画家、考古学者や秘書もいて、怪しげな人物だらけ。難航する捜査をよそに、牧師館の隣人のおしゃべりで穿鑿好きな老婦人が、好奇心と人間観察で事件を解決に導く。ポワロと並び称されるクリスティの二大探偵のひとりミス・マープルの初登場作。
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「牧師館の殺人」の語り手は、殺人現場でもある牧師館の主人・クレメント牧師。
このクレメント牧師により、大きな事件など起こりもしない平和なセント・メアリ・ミード村で起きた殺人事件の顛末が語られていきます。
被害者となったのは、村の治安判事・プロザロー大佐。
厳格で口うるさいプロザロー大佐は村の人からまったく好かれていませんでした。
嫌われるのはもちろん、恨みを持つ人も少なくありません。
語り手であるクレメント牧師ですら良く思っていない人物です。
警察はすぐに捜査を開始し、まもなく犯人を名乗る人物が自首していきます。
しかし、自首した人物の供述には不可解な点が多く、すぐに捜査は振り出しに。
動機がある人物が多いため、かえって難航する捜査。
そんな中、牧師館と隣接する住宅に住む老婦人ミス・マープルの機転から事件は思わぬ結末を迎えるのです。
ミス・マープルの初登場作品について
「牧師館の殺人」はミス・マープルが登場した初めての単行本です。
しかし、ミス・マープルが初めて読者の前に姿を現したのは1927年『火曜クラブ』という名前で雑誌に掲載された短編でした。
この『火曜クラブ』は1932年に、他の12の短編と併せて「火曜クラブ」として刊行。
後に「ミス・マープルと13の謎」と改題され、日本でも刊行されています。
初出では短編『火曜クラブ』の方が先ですが、単行本として出版されたのは「牧師館の殺人」の方が先。
そのため、この「牧師館の殺人」が最初の事件・初登場作品として扱われることが多いとのことです。
いずれにしても「牧師館の殺人」はミス・マープルにおける初の長編作品ですね。
わたしは「ミス・マープルと13の謎」・「牧師館の殺人」のいずれも読みましたが、どちらから読んでも大丈夫です。
「牧師館の殺人」を楽しむための基礎知識
「ミス・マープル最初の事件 牧師館の殺人」をより深く楽しむために基礎知識をまとめてみました。
『ミス・マープル』シリーズとは?
「牧師館の殺人」における探偵役ミス・マープルは、アガサ・クリスティが生み出した二大名探偵の1人です。
二大名探偵のうち、もう1人はエルキュール・ポワロですね。
『ミス・マープル』シリーズは、そんな名探偵ミス・マープルが主人公である小説シリーズとなります。
クリスティは、ミス・マープルが活躍する12の長編・20の短編を生み出しました。
1927年の初登場の短編『火曜クラブ』から、クリスティの死後となる1976年「スリーピング・マーダー」まで実に50年近くも続くなんて、大人気シリーズですね。
ミス・マープルの人物像
ミス・マープルの本名はジェーン・マープル(Jane Marple)です。
1800年代後半にイギリス・ロンドン近郊に生まれ、人生の大半をセント・メアリ・ミード村で過ごしています。
このセント・メアリ・ミード村はロンドンから25マイルほどの距離にある、架空の村です。
※25マイルはおよそ40kmです。
そんなミス・マープルの性格は、Wikipediaによると
『牧師館の殺人』では詮索好きで辛辣な性格だったが、その後の作品では詮索好きには変わりはないものの温厚であり、人好きするタイプに変わり、一般にイメージされるような優しい老婦人になっている。
ミス・マープルーWikipedia
とのこと。
作品を重ねるにつれ、性格が徐々に変化しているとのことです。
また、活動的で社交性が高いというのもミス・マープルの特徴です。
探偵として、事件に自ら首を突っ込み、解決に導く大胆さもしっかり持ち合わせています。
牧師とは?
「牧師館の殺人」の語り手・クレメント牧師。
このクレメント牧師の職業『牧師』とはキリスト教のプロテスタントの教職者です。
カトリックの教職者は『神父』。
今まで何となく牧師・神父を使っていましたが、明確な違いがあったのですね・・・。
ちなみに「牧師館の殺人」のクレメント牧師は結婚し、グリゼルダという若い妻がいます。
読んでいて「あれ?牧師さんって結婚できるんだっけ?」と思い調べたところ、カトリックの司祭(神父)と違い、牧師は結婚できるとのこと。
無知でお恥ずかしい限りです・・・。
このキリスト教における教職者の基本を頭に入れておくと「牧師館の殺人」がすんなり読めるかと思います。
「牧師館の殺人」感想・あらすじ
「牧師館の殺人」の感想・あらすじです。
名探偵が誕生する瞬間
「牧師館の殺人」で描かれるのは、ミス・マープルという名探偵が誕生する瞬間、なのかもしれません。
ミス・マープルが初めて世間に広く紹介された作品であるこの「牧師館の殺人」。
作中では、途中までミス・マープルが名探偵として活躍する様子はありません。
もちろん、初登場シーンから、その洞察力の深さと鋭さは垣間見えます。
しかし、ミス・マープルが名探偵になるのは物語の終盤。
事件が最終局面を迎えるまで、名探偵としてのミス・マープルはなりを潜めていました。
アガサ・クリスティが亡くなって50年近く経つ現在なら、読む前から名探偵=ミス・マープルということは周知の事実。
けれども、最初の事件でもあるこの「牧師館の殺人」が刊行された当時は誰が探偵役に名乗り出るか分からない状況だったのでしょう。
そういう意味合いでは、この「牧師館の殺人」はミス・マープルのお披露目的な小説だったと思いました。
現代に通じるテーマ
「牧師館の殺人」では不倫や再婚、継母と継子の関係など、現代にも通じるテーマが盛り込まれた小説です。
90年以上前にイギリスで書かれた小説にも関わらず、現代の日本でもありふれたテーマを取り上げていてとても読みやすかったです。
90年経っても人の悩みは変わらないものだな、と変に感心してしまいました。
また、警察官が高圧的なのも、現代のミステリー小説に通じる部分だと思います。
牧師の主観で進むストーリーは、展開が遅めで、やや間怠っこさも感じました。
しかし、細かすぎる人物描写が結末に与える影響が大きいのもまた事実。
どう殺したか、ではなく「誰が殺したか」に重きを置いたクリスティらしいミステリーと言えます。
ここまで「ミス・マープル最初の事件 牧師館の殺人」の感想でした。