4月16日に原田マハさん原作の映画「キネマの神様」が公開します。
※8月6日(金)に公開延期となっていました。コロナの影響ですね・・・。
「キネマの神様」は映画好きな父娘の物語でしたが、原田マハさんといえばやはりアート小説!
そんな原田マハさんが手がけるアート小説の入門編としてオススメなのが「デトロイト美術館の奇跡」です。

原田マハさんにしか書けないアートが根幹にある人間ドラマ。
その世界観をご紹介します。
さらに、同小説を読んだことがある方向けに、デトロイト美術館で実際に起こったことについてもお伝えします。
- 小学校高学年~
- エロ・グロ描写なし
- 難しい表現なし
- 実話を元にした感動ストーリー
- 110ページ強で読みやすい
「デトロイト美術館の奇跡」のあらすじ
何でもします。あの絵を、《画家の夫人》を守るためなら。ゴッホにセザンヌ、ルノワール。綺羅星のようなコレクションを誇った美術館は、二〇一三年、市の財政難から存続の危機にさらされる。市民の暮らしと前時代の遺物、どちらを選ぶべきなのか? 全米を巻き込んだ論争は、ある老人の切なる思いによって変わっていく――。実話をもとに描かれる、ささやかで偉大な奇跡の物語。
Amazon.co.jpー「デトロイト美術館の奇跡」
この「デトロイト美術館の奇跡」は実際に会った出来事を下敷きに書かれたフィクションです。
小説の舞台はアメリカ・ミシガン州にあるデトロイト美術館。

劇中で登場する登場人物はすべて現地のアメリカ人で、1人を除きすべてオリジナルの人物となっています。
そのため人物名はすべてカタカナ。
海外小説を読み慣れてない方には若干とっつきにくいかもしれません。
けれども、そもそも登場人物が少ないので、とりあえず主要な3人が覚えられれば大丈夫です。
小説は2013年(1章・3章)と1969年(2章)、そして2013~2015年(4章)という4章で構成。
現代とおよそ50年前のパートに分かれており、歴史物としての観点からも楽しめる小説です。
著者・原田マハとは
原田マハさんは、わたしが思う日本が誇るアート小説の名手です。
これまでにも、
- ピカソの『ゲルニカ』と、それを取り巻く人間模様を描いた「暗幕のゲルニカ」
- ゴッホとその弟の関係性を中心に描いた「たゆたえとも沈まず」
- ルソーの絵画を巡るミステリー「楽園のカンヴァス」
など数々の名作アート小説を世に送り出しています。
わたしは上記3作品をすべて読んでいますが、どれも面白くて引き込まれてしまいました。
原田マハ作品の魅力
原田マハさんの作品の魅力は、アートが分からなくても面白いと感じることです。
実際わたしはアートのことがほぼ分かりません。
原田さんの小説を読むまで、ゴッホとピカソの違いもよく分かっていませんでした。
そんなアートに対しそ無知なわたしでもスラスラと読み進められるのは、原田さんの為せる業でしょう。
原田マハさんの来歴
小説家になる前の原田マハさんは、森ビル森美術館の設立準備室やニューヨーク近代美術館に勤務していました。
美術に関してバリバリの専門家だったのです。
さらに、早稲田大学第二文学部美術史科を卒業し、学芸員の資格も保有。
大学で専攻していたのは20世紀美術でしたが、小説では幅広い年代のアートをテーマにしています。
その後、2005年のデビュー作「カフーを待ちわびて」で日本ラブストーリー大賞を受賞し小説家の道へ。
小説家デビューはラブストーリーでしたが、元々アート小説を書きたいと思っていたと語っています。
そして、2012年に発表した「楽園のカンヴァス」が大ヒット。
その後はアート小説を中心に活躍を続けています。
<既読者向け>小説の舞台・カバー絵の作者について
ここからは、原作を読んだ方向けに、わたしが「デトロイト美術館の奇跡」を読んで気になった
小節の舞台・デトロイト
カバー絵「画家の夫人」
作者ポール・セザンヌ
について調べたことをまとめてみました。
小説の舞台「デトロイト美術館」について
「デトロイト美術館の奇跡」は、一時は存続の危機に陥ったデトロイト美術館に起こった奇跡について書かれた作品です。
小節の中で描かれているデトロイト美術館存続の危機はほぼ実話です。
小節の舞台・デトロイトと言えば、中学校くらいの時に自動車産業が有名な土地と習った記憶があります。
実際、この「デトロイト美術館の奇跡」の主人公の1人であるフレッドも自動車会社の工場に勤務していました。
しかし、デトロイトが自動車産業で盛んだったのは1900年代前半。
1900年代後半にはすでに産業が下火だったようです。
フレッドも2000年ごろに自動車会社をクビになっています。
それから13年後の2013年7月にデトロイトは財政破綻。
その時点でデトロイトの負債総額は180億ドルでした。
日本円だと1兆8000億円です。
もはや国家並みの規模で想像すらできませんね・・・。
その負債の補填などのため、美術館に所蔵されている美術品の売却が検討されました。
しかし、美術館の危機にデトロイト市民が立ち上がります。
その結末は「デトロイト美術館の奇跡」に描かれている通り。
デトロイト美術館は市民や各地の美術団体の手によって守られ、現在もデトロイト市民に親しまれています。
ちなみに、財政破綻まで追い込まれたデトロイトですが、現在はロボット産業都市として経済に再生の兆しが見えているようです。
カバー絵「画家の夫人」作者 ポール・セザンヌとは
「デトロイト美術館の奇跡」の表紙を飾るのは「画家の夫人(マダム・セザンヌ)」という作品です。

劇中でもこの「画家の夫人」は幾度となく話題になっていますよね。
いや「画家の夫人」がこの小節の核であるとも言えるでしょう。
作者はポール・セザンヌ。
1800年代にフランスで活躍した画家で、現代では「近代絵画の父」として高く評価されています。
けれども、生前はほとんど亡くなる直前まで評価されないという不遇の人生を送っていたようです。
「画家の夫人」のモデルは、劇中でも説明はありますがセザンヌの妻・オルタンス・フィケです。
オルタンスとは17年間の同棲を経て結婚。
ちなみに「画家の夫人」は、2人が結婚した1886~1887年頃に描かれた作品です。
ただ、同棲と言ってもこの間に子どもも授かっているので、籍を入れていない事実婚状態でした。
画家だけでは生活できず、父親からの仕送りを得たいがために妻と子どもの存在を隠し続けていたとのことです。
しかし、正式に結婚する前に父親には気付かれていたらしく、仕送りを減らされ生活は困窮していたようです。
そんな状態でもいっしょにいることを選んだ2人。
画家として評価されていない時代から、セザンヌをずっと支え続けたオルタンスにはもはや凄みすら感じますね・・・。
セザンヌがオルタンスをモデルにした作品は、この「画家の夫人」以外にも油彩だけでも30作品弱。
夫婦はよほど仲が良かったのだろう、と思いきや、実はようやく結婚した時点で2人は別居状態だったようなのです!
セザンヌにとって妻・オルタンスはリンゴのように動かないモデルでした。
とにかく描かれている時に体を動かさずにいられるので、モデルとして重宝していただけだったとか。
完全に夫婦の絆的なものを期待していたので、少しショックです・・・。
花緒の感想
原田マハさんのアート小説では、1人のアーティストの半生や作品をテーマにしたものを読んできましたが、この「デトロイト美術館の奇跡」は美術館をテーマにしたお話です。
小説の中には、美術館にアートを見に行くことを「友だちに会いに行く」と語る人物が登場します。
アートが友だち、という思いはそのまま作者である原田マハさんの思いが込められていると感じました。
美術館にはアートだけでなく、アートを愛する人々の思いや愛がつまっている。
そんな人々の思いが起こした奇跡を堪能できた作品でした。