「長編もいいけれど、すぐに完結する短編が読みたい」
そんな方にオススメなのが原田マハさんの小説「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」です。
タピスリー「貴婦人と一角獣」と作家ジョルジュ・サンドの関係とは?
カラーで掲載された「貴婦人と一角獣」を眺めつつ、物語の世界に浸れるアート小説です。
- 作者:原田マハ
- 対象:小学校高学年~
- エログロ描写なし
- 2013年9月にNHK出版より刊行
「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」あらすじ
「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」は原田マハさんの小説です。
物語の舞台は19世紀のフランス。
主人公はフランスの女性作家であるジョルジュ・サンドです。
小説ではそのジョルジュ・サンドの葬儀から始まります。
そんな「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」のあらすじはこちらです。
「それが、それだけが、私の唯一の望み──」
ある一つの望みを未来に託し、ジョルジュ・サンドは永遠の眠りにつく。その昔、彼女は滞在していた古城で美しいタピスリーに魅入られた。そこに描かれた貴婦人が夜ごとサンドの夢に現れ、震える声で語りかける。「お願い、ここから出して」と──。「貴婦人と一角獣」に秘められた物語が今、幕を開ける。
ユニコーンーAmazon.co.jp
この小説は
- 原田マハさんによるジョルジュ・サンドとタピスリーの物語
- ジョルジュ・サンドがタピスリーについて言及した著作
の2部構成となっています。
さらに、小説の巻頭にはタピスリー「貴婦人と一角獣」の写真が掲載。
物語の核となるタピスリー「貴婦人と一角獣」を確かめながら読み進められるので理解が深まりました。
ジョルジュ・サンドの遺言
原田マハさんが手がけた物語の部分は、それぞれ時代が異なる3部で構成されています。
まずはじめは、ジョルジュ・サンドの葬儀。
語り手は、クリュニー美術館(現・国立中世美術館)の初代館長であるエドモン・デュ・ソムラール。
長年親交があったジョルジュ・サンドの葬儀に参列した彼は、彼女と生前に交わした「ある約束」を思い出します。
そこで時代は40年ほど遡り、ジョルジュ・サンドの視点で物語は展開。
ブサック城でタピスリー「貴婦人と一角獣」と出会ったジョルジュ・サンドは、その魔力に取り憑かれていくのです。
そしてジョルジュ・サンドが「貴婦人と一角獣」に出会ってから数年後。
ジョルジュ・サンドとエドモン・デュ・ソムラールが知人の薦めで対面する、というところで物語は終わります。
おそらくその後、生前には果たされることがなく遺言となった「ある約束」が交わされることになったのでしょう。
その「ある約束」については後述します。
短すぎるのはまだ「序章」だから
ちなみに、小説部分は100p弱しかなく、あっという間に読み終わってしまいます。
その短さは拍子抜けするほど。素直に物足りなさを感じました。
しかし、この物足りなさには理由がありました。
日本の国立西洋美術館で2013年に開催された「フランス国立クリュニー中世美術館所蔵《貴婦人と一角獣》」を受けて行われた原田マハさんの講演会にて、原田さんは
「これ(ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~)は序章的なものです」
と話していました。
日本で「貴婦人と一角獣」が展示されるのを受け、その期間中に書き上げたのが本作「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」だったのですね。
原田さんはこの「貴婦人と一角獣」を巡る物語に関する壮大な構想を練っている最中とも話していました(2013年のことです)。
その構想が形になったら、是非とも手に取って読みたいですね。
ジョルジュ・サンドとはどんな人?
「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」の主人公であるジョルジュ・サンドは実在の人物です。
19世紀に活躍したフランスのロマン主義の女性作家で、初期のフェミニストとしても知られています。
18世紀から19世紀のヨーロッパを中心に起こった精神運動。
古典主義の理性や合理性を否定し、自由で個人的な感受性に重きを置いた表現方法として知られる。
ジョルジュサンドは「ジョルジュ」という男性名でデビューしたため、当初は男性作家と思われていたようです。
ちなみにジョルジュは「George」と表記されます。英語だと「ジョージ」ですね。
72年の生涯で数多くの作品を生み出し、晩年まで精力的な執筆活動を続けました。
また、多くの男性と浮名を流し、その中には作曲家・ショパンやリストも含まれます。
わたしはジョルジュ・サンドを「うっすら名前を知っている程度」しか知りませんでした。
「ユニコーン」を読んで興味がわいたので、機会があったら読んでみようと思います。
タピスリー「貴婦人と一角獣」
ここからは「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」のテーマであるタピスリー「貴婦人と一角獣」についてまとめていきます。
そもそも「タピスリー」とは?
タピスリー(tapisserie)は室内を飾るための織物の一種です。
日本では「タペストリー(tapestry)」と表記されることの方が多いでしょうか?
※タピスリーはフランス語「tapisserie」。
「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」でフランス語の「タピスリー」と表記されているので、同記事ではそれに倣います。
ちなみに、現在ではゴブラン織りと呼ばれることもあります。
そんなタピスリーは↓のような織物です。
※上のタピスリーは「貴婦人と一角獣」ではありません。
きらびやかですよね。
また「これを機織りで作っているのか!」という驚きもあります。
左下に人物が写っているので、このタピスリーがとても大きいことも分かります。
フランスではタピスリーが栄えたのは14世紀以降。
15世紀半ば頃から壁掛けとして壁紙が主流となり、徐々に数を減らしていったとのことです。
「貴婦人と一角獣」はそんなフランスのタピスリーのなかでも最も有名な作品の1つとして知られます。
「貴婦人と一角獣」について
タピスリー「貴婦人と一角獣」は15世紀末にフランス・フランドルで織られた作品です。
正確な製作場所・時期が不明な謎めいた作品でもあります。
15世紀末ということは、今から500年以上前の作品と言うことですね。
「貴婦人と一角獣」は6枚のタピスリーからなる連作でもあり、1つずつに
- 味覚
- 聴覚
- 視覚
- 嗅覚
- 触覚
- 我が唯一の望みに(愛・理解)
という6つの感覚を表したもの、と解釈されています。
すべてのタピスリーの中心に貴婦人が、右側にユニコーン(一角獣)が描かれているのが特徴です。
「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」には、この「貴婦人と一角獣」の6つすべてがカラーで掲載されています。
「貴婦人と一角獣」とジョルジュ・サンドの関係
この「貴婦人と一角獣」が知られるきっかけとなったのがジョルジュ・サンドでした。
ジョルジュ・サンドが著書「ジャンヌ 無垢の魂をもつ野の少女」にて「貴婦人と一角獣」(1844年)に言及。
※「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」には、ジョルジュ・サンドが「貴婦人と一角獣」について書いた記事・日記も掲載されています。
人気作家だった彼女が称賛したことで、「貴婦人と一角獣」に世間の関心が集まりました。
小説「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」で書かれているようなジョルジュ・サンドとタピスリーの出会いがあったかは不明です。
しかし、彼女が「貴婦人と一角獣」を愛していたのは事実のようです。
そして「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」でジョルジュ・サンドはエドモン・デュ・ソムラールと「ある約束」を交わします。
「ある約束」とは『エドモン・デュ・ソムラールの国立中世美術館に「貴婦人と一角獣」を展示すること』だったのだと思われます。
その約束はジョルジュ・サンドの生前には叶いませんでした。
けれども、彼女の死から6年経った1882年、国立中世美術館の所蔵となります。
そして現在も国立西洋美術館に展示されています。
「貴婦人と一角獣」はこれまでほとんど外国に貸し出されず、2013年の日本展示は実に39年ぶりの来日でした。
こんな事情を知っていたら、当時展示会に行きたかったです・・・。
ジョルジュ・サンドとタピスリー「貴婦人と一角獣」の不思議な縁を描いた「ユニコーン ~ジョルジュ・サンドの遺言~」。
タピスリーに美しさを目で確かめながら物語を楽しめる、贅沢な1冊でした。