原田マハさんの小説「丘の上の賢人 旅屋おかえり」の感想です。
ドラマ化もされた人気小説「旅屋おかえり」の未収録エピソードの文庫化です。
主人公・おかえりの故郷でもある北海道への旅路でおかえりが気付いた帰る場所とは?
さらに、作者・原田マハさんのエッセイと書き下ろしマンガも収録と、ボリューム満点の内容となっています。
- 作者:原田マハ
- 対象:中学生~
- エログロ描写なし
- 2021年12月に集英社より文庫化
- 初出2010年3~7月:集英社WEB文芸
「丘の上の賢人 旅屋おかえり」について
「丘の上の賢人 旅屋おかえり」は原田マハさんの小説です。
タイトルの後ろに付いている言葉から分かるように、この「丘の上の賢人」は「旅屋おかえり」のシリーズものに当たります。
ただ、続編ではないのがややこしいところ。
まずは「丘の上の賢人 旅屋おかえり」のあらすじを掲載します。
あなたのふるさとはどこですか?
幻の札幌・小樽編を収録! ベストセラー『旅屋おかえり』シリーズ特別編
勝田文さん描き下ろし漫画も収録 いきなり文庫!売れないタレント・おかえりこと丘えりかは、依頼人に代わり旅をする「旅の代理人」。秋田での初仕事を終え、次なる旅先は北海道──ある動画に映っている人物が、かつての恋人か確かめてほしいという依頼だった。依頼人には、初恋を巡るほろ苦い過去があって……。『旅屋おかえり』未収録の、幻の札幌・小樽編が待望の書籍化。北海道旅エッセイ&おかえりデビュー前夜を描いた漫画も収録した特別編!
丘の上の賢人 旅屋おかえり―Amazon.co.jp
「丘の上の賢人 旅屋おかえり」には単行本がなく、いきなり文庫として登場した小説です。
また、先ほども説明しましたが、この「丘の上の賢人」は「旅屋おかえり」のシリーズ第2作に当たります。
同名シリーズの2作目ですが、続編ではありません。
「丘の上の賢人」は、崖っぷちタレント『おかえり』こと丘えりかが、旅屋として2番目に受けた依頼の話。
時系列的には「旅屋おかえり」の『秋田県・角館』編と『高知檮原・愛媛内子』編の間のストーリーとなります。
「丘の上の賢人」は、「旅屋おかえり」連載時に掲載されていたものの、2012年に刊行された「旅屋おかえり」単行本には収録されませんでした。
おそらくドラマ化などによる反響から、未収録エピソードの文庫化に踏み切ったのでは?と思われます。
※情報は「丘の上の賢人 旅屋おかえり」のあとがきを参考にしました。
小説+エッセイ&マンガ
「丘の上の賢人 旅屋おかえり」は、小説「丘の上の賢人」だけでなく、原田マハさんのエッセイと書き下ろしマンガも収録されています。
どれも北海道が舞台&テーマとなっており、不思議な統一感があるのが面白ポイントです。
「丘の上の賢人 旅屋おかえり」感想・あらすじ
「丘の上の賢人 旅屋おかえり」の小説・エッセイ・マンガそれぞれの感想とあらすじです。
『丘の上の賢人』
小説「旅屋おかえり」の第2章に当たるお話です。
※第1章を『秋田県・角館』編、第3章を『高知檮原・愛媛内子』とみなした場合です。
旅屋を始めるきっかけとなった依頼を無事にやり遂げ、本格的に旅屋としての活動を始めたおかえり。
HPを立ち上げ、イタズラメールと格闘する日々を送っていたおかえりたちのもとに、ある1通のメールが届きます。
メールには1人の男性が大人数の若者から暴行を受ける、というショッキングな動画が添付されていました。
そのメールの送り主である女性の依頼は『暴行を受ける男性が、自分のかつての恋人か確かめに行って欲しい』というものでした。
行き先が『成功するまで帰らない』と宣言していた故郷・北海道ということもあり、依頼を受けるか悩むおかえり。
けれども、一念発起して依頼先である北海道へと向かいます。
事情があって故郷を離れたのは、依頼主の女性だけでなくおかえりも同じ。
帰りたい気持ちはある、けれど帰れない理由もある。
依頼主の複雑な思いはおかえりにも共通するものでした。
だからこそ、親身になり、依頼主の思いに全力で寄り添おうとするおかえりはやはり読んでいて好感が持てました。
また、依頼された内容をやり遂げるだけでなく、おかえり自身が旅を楽しんでいるのも良かったです。
出てくる料理がどれもおいしそうだったのが、読んでいてある意味苦しかったです。
結末はもちろんハッピーエンド。
裏切らない心温まる展開は素直に嬉しかったです。
『丘の上の賢人』の舞台について
この『丘の上の賢人』の舞台は北海道の札幌市と小樽市。
特に中心となるのは、札幌市にあるモエレ沼公園です。
彫刻家のイサム・ノグチによって設計された公園、という知識くらいはありましたが、それ以上のことは知らなかったモエレ沼公園。
今回、HPで調べてみて、そのあまりの広大さと美しさに驚きます。
特に小説の重要なシーンに登場するモエレ山は、写真で見るとどこかミステリアスな雰囲気があり、小説のシーンが鮮明に再現できました。
北海道が舞台の小説、と聞くと、好きな作家の1人である桜木紫乃さんの小説たちが思い浮かびます。
桜木紫乃さんの小説に登場する北海道は、北海道出身の桜木さんによる寒さや厳しさが克明に描かれたイメージです。
しかし、原田マハさんの小説に登場した北海道は、東京都出身である原田さんの旅人視点から描かれ、広大な大地への憧れが感じられるテイストでした。
わたしは北海道へ行ったことがないので原田さんのような旅人視点でしか北海道を味わえません。
どちらにもどちらの良さがあり、書き手によって色々な角度から北海道を楽しめるのはやはり小説の醍醐味だと改めて感じました。
※参考 モエレ沼公園
エッセイ『フーテンのマハSP 旅すれば 乳濃いし』
2014年に小説すばるに掲載された原田マハさんのエッセイです。
内容は、原田さんが北海道で乳製品巡りの旅をするというもの。
15ページ未満のグルメエッセイで、ひたすらおいしそうでした。
また、ひたすら明るい雰囲気で、原田マハさんの人柄も感じられて良かったです。
本当にずっと乳製品を食べているのがスゴかったです・・・。
おかえりの島~旅屋おかえり~ 漫画・勝田文
小説「旅屋おかえり」にて、おかえりが高校時代に所属事務所よろずやプロの社長・萬鉄壁と出会ったエピソードをマンガ化したものです。
書き下ろしマンガ、ということもあり、なかなか貴重ですね。
マンガを手がけたのは、漫画家の勝田文さん。
絵柄が「旅屋おかえり」の雰囲気と合っていて、とても良かったです。
主人公・おかえりの名前が活きるストーリーだったので、前作「旅屋おかえり」に収録されなかったのがもったいないと感じました。
けれども、もったいないと感じるエピソードだからこそ「旅屋おかえり」を読んでいる方にはぜひとも読んで欲しい話でもあります。
ここまで「丘の上の賢人 旅屋おかえり」の感想でした。