原田マハさんの小説「スイート・ホーム」の感想です。
洋菓子店スイート・ホームを中心に繰り広げられる、家族愛や淡い恋愛模様を描いた心温まる小説です。
誰も傷つかない、優しい小説が読みたい方にオススメしたいお話でした。
- 作者:原田マハ
- 対象:小学校高学年~
- エログロ描写なし
- 2018年3月にポプラ社より刊行
- 初出:阪急不動産株式会社HP
「スイート・ホーム」とは
「スイート・ホーム」は原田マハさんの小説です。
原田マハさんと言えば、芸術をテーマにした『アート小説』が人気ですよね。
しかし、この「スイート・ホーム」は恋愛や家族がテーマの心温まる人間ドラマがテーマとなっています。
そんな「スイート・ホーム」のあらすじを掲載します。
幸せのレシピ。隠し味は、誰かを大切に想う気持ち―。うつくしい高台の街にある小さな洋菓子店で繰り広げられる、愛に満ちた家族の物語。さりげない日常の中に潜む幸せを掬い上げた、心温まる連作短篇集。
スイート・ホーム―Amazon.co.jp
「スイート・ホーム」は、同じ世界観で展開される4つの短編が収録された連作短編集です。
そのうち4つ目の短編は5つの掌編(短編よりも短い小説のこと)から構成されています。
つまり、厳密には『3短編』+『5掌編』の計8編からなる連作短編集となります。
『阪急不動産』のPR小説
「スイート・ホーム」の初出は阪急不動産株式会社のHP。
つまり、阪急不動産により、ニュータウン・宝塚山手台のPRとして書かれた小説だったのです。
阪急不動産HP・宝塚山手台のページは↓
そのため、小説の舞台はすべて宝塚山手台、登場する人物はみんな宝塚山手台に住んでいるor引っ越し予定の人ばかりです。
読んでいる最中は少し「ん?」となりましたが、読み終え阪急不動産の企画だったと知り納得しました。
小説の題材は、一般の方からエピソードを募集。
募集リリースはこちらから確認できます。(PDFファイルです)
集まったエピソードを厳選し、原田マハさんが小説に仕上げたということになります。
ちなみに、企画が始まったのは2011年12月。ちょうど今から10年前でした。
連載小説にも色々な形があるのですね。
「スイート・ホーム」あらすじ&感想
「スイート・ホーム」のあらすじ&感想です。
まず、すでに説明しましたが、この「スイート・ホーム」は全編を通して宝塚山手台が舞台となっています。
宝塚山手台は、兵庫県宝塚市に実際にある郊外型ニュータウンです。
この宝塚山手台のPRのために書かれた小説なので、この町で話が展開していくのは必然と言えます。
そして、物語の中心には必ず、タイトルにもなっている洋菓子店『スイート・ホーム』が存在します。
『スイート・ホーム』は、小さい女の子が将来の夢として思い描きそうな洋菓子店。
「スイート・ホーム」はその洋菓子店『スイート・ホーム』の家族とその周りの人が繰り広げるハートウォーミングな物語です。
阪急不動産のPR小説ということもあってか、この小説には嫌な人・不快な描写などはほぼ出てきません。
ひたすらに幸せで理想的な宝塚山手台での生活が描かれています。
最近、ハードな小説ばかり読んでいたので、あまりの平和な展開に少々面食らうほどでした。
しかし、この幸せで心地よい文章に200ページ以上も浸れるというのはなかなか貴重だと思います。
ただ、その分現実離れしているとも感じました。
幸せな展開&優しい人たち&理想的な生活という夢のような世界を覗き見たいという方にはオススメですが、ハードでリアリティのある作品が読みたい方には向かないと思います。
ここからは、各編ごとにあらすじ&感想を書いていきます。
スイート・ホーム
『スイート・ホーム』の店主の長女・香田陽皆(こうだ・ひな)が主人公。
陽皆は働いている雑貨店に客として訪れた男性に一目惚れしてしまいます。
初めて来店した日から、毎週同じ曜日・同じ時間に訪れるようになった男性。
どんどん思いを募らせる陽皆ですが、自ら思いを打ち明けられるほど社交的な性格でないため、関係は店員と客から進展しません。
そんな中、ついに決心し思いを伝えるべく、陽皆は男性のためクリスマスが近いこともあり手作りケーキを用意します。
しかし、その日、男性が店を訪れることはありませんでした・・・。
引っ込み思案で大人しい性格の陽皆の切実な恋心。
そしてそんな陽皆を優しくサポートする家族の温かさを感じられる話でした。
あしたのレシピ
『スイート・ホーム』に少しだけ登場した、料理教室の講師・未来(みき)が主人公。
『スイート・ホーム』から6年後の時間が経っています。
未来は行きつけの洋菓子店スイート・ホームでスイーツ好きの男性・辰野と出会います。
スイーツ好き同士話が弾み、さらに未来の料理教室のHP製作でたびたび顔を合わせることに。
辰野に恋心を募らせる未来ですが、ある日そんな辰野からショッキングな告白をされていまいます・・・。
恋人ではない男女の関係を丁寧に描いた話だと思いました。
ただ、辰野の鈍感さにやきもきする話でもあります。
希望のギフト
陽皆の妹・晴日が主人公、『スイート・ホーム』から10年が経過しています。
陽皆と晴日の叔母で、夫を亡くした『いっこおばちゃん』が居候として同居を開始。
洋菓子店スイート・ホームの看板娘として手伝いを始めています。
明るくて元気いっぱいないっこおばちゃんですが、ある日旅行先でリハビリが必要な大けがをしてしまいます。
生きる希望を失ったように無力になってしまったいっこおばちゃん。
そんな中、いっこおばちゃんを励ますために晴日はある行動を起こします。
繊細な家族の関係を描いたお話でした。
晴日からいっこおばちゃんへの『希望のギフト』はありきたりですが、それでもグッときました。
ただ、1つ気になったのが陽皆の娘・さくらが5歳である点です。
『あしたのレシピ』(スタート時から6年経過)は『希望のギフト』(スタート時から10年経過)の4年前の設定。
しかし『あしたのレシピ』には陽皆も登場するものの、娘の存在にまったく触れられていませんでした。
『あしたのレシピ』の時に娘・さくらは1歳ほどと思われるので、触れられていないのはやや不自然に感じました。
めぐりゆく季節
この『めぐりゆく季節』は、
- 秋の桜
- ふたりの聖夜
- 冬のひだまり
- 幸福の木
- いちばんめの季節
という掌編から構成されています。
メインの登場人物はバラバラ。(『秋の桜』『いちばんめの季節』は同じ人物がメインです)
しかし、その話も洋菓子店スイート・ホームのケーキにまつわるストーリーでした。
ニュータウンのPR小説ではあるものの、洋菓子店スイート・ホームやスイート・ホームのケーキの描写が印象深い小説でした。
また「スイート・ホーム」というタイトルには、登場人物たちがそれぞれの「スイート・ホーム」を築いていく、という意味もあったのだと読み終わって思いました。
うっとりと自分の幸せな家庭、まさに「スイート・ホーム」について思い巡らせながら読むのにピッタリだと思います。
ここまで、原田マハさんの小説「スイート・ホーム」の感想でした。