東野圭吾さんの小説「透明な螺旋」の感想です。
『ガリレオ』シリーズの10作目にして、探偵・湯川学の過去が明かされる小説です。
科学ミステリーではない、人間ドラマが中心となった、新しい『ガリレオ』シリーズの1冊です。
- 作者:東野圭吾
- 対象:中学生~
- エログロ描写なし
- 2021年9月に文藝春秋より刊行
- 『ガリレオ』シリーズ・10作目
「透明な螺旋」について
「透明な螺旋(らせん)」は東野圭吾さんのミステリー小説です。
また東野圭吾さんの大人気探偵シリーズ『ガリレオ』の10作目に当たる長編小説でもあります。
『ガリレオ』シリーズでおなじみのキャラクターたちはしっかり健在。
さらに、主人公・湯川学の過去が明かされるなど、シリーズにとって1つの節目のような作品でもありました。
そんな「透明な螺旋」のあらすじを掲載します。
シリーズ第十弾。最新長編。
今、明かされる「ガリレオの真実」。房総沖で男性の銃殺遺体が見つかった。
失踪した恋人の行方をたどると、関係者として天才物理学者の名が浮上した。
警視庁の刑事・草薙は、横須賀の両親のもとで過ごす湯川学を訪ねる。「愛する人を守ることは罪なのか」
透明な螺旋―Amazon.co.jp
ガリレオシリーズ最大の秘密が明かされる。
この「透明な螺旋」は
- 探偵役・湯川学が事件の関係者に
- 科学捜査が少なめ
という、これまでの『ガリレオ』シリーズとしては珍しい特徴があります。
そのため「『ガリレオ』と言えば科学捜査」という往年のファンにとっては物足りなさも感じるかもしれません。
Amazonレビューは「ガリレオらしくない」という批判もけっこうありました。
ただその一方で、湯川の過去など人間ドラマが中心のミステリー作品に仕上がり、難しい専門用語が苦手な方でも読みやすい小説になっていると思います。
『ガリレオ』シリーズ一覧
『ガリレオ』シリーズを刊行順にまとめてみます。
※刊行日は単行本のものになります。
- 1998年5月「探偵ガリレオ」
短編5本
- 2000年6月「予知夢」
短編5本
- 2005年8月「容疑者Xの献身」
長編
同作で直木賞を獲得 - 2008年10月「ガリレオの苦悩」
短編5本
- 2008年10月「聖女の救済」
長編
※「ガリレオの苦悩」と同時刊行 - 2011年6月「真夏の方程式」
長編
- 2012年8月「虚像の道化師 ガリレオ7」
短編4本
- 2012年10月「禁断の魔術 ガリレオ8」
短編4本
- 2018年10月「沈黙のパレード」
長編
- 2021年9月「透明な螺旋」
長編
『ガリレオ』シリーズは24年も前から続いているのですね。
こうしてまとめてみると、わたしは9作目「沈黙のパレード」以外はすべて読んでいました。
ただ、10年ほど前から読み始めているので、シリーズ初期の作品はほとんど憶えていません・・・。
機会があったら、読み返してみようと思います。
「透明な螺旋」あらすじ&感想
「透明な螺旋」は↑に掲載したあらすじにもある通り『海で発見された変死体の犯人を解き明かす』というのが主なストーリーです。
しかし、小説のテーマは、変死体として発見された男性を『誰が』『どのような理由で』殺したか、というものでした。
犯人の正体、そして殺人を犯した理由、さらに待ち受ける結末はとても切ないものでした。
ここからは、さらに『ガリレオ』シリーズ10作目となった「透明な螺旋」のあらすじ&感想を掘り下げていきます。
湯川&草薙&内海のトリオは健在
『ガリレオ』シリーズと言えば、大学の物理学部教授である湯川学と、湯川の大学の同窓で刑事の草薙、さらに途中から加わった内海薫のトリオ。
探偵役である湯川と、その助手役の草薙&内海のタッグはこの「透明な螺旋」でも健在でした。
シリーズを重ねるごとに湯川は教授になったり、草薙は出世したりと時間の経過を感じます。
けれども、3人の関係性は変わらないので『ガリレオ』シリーズを久しぶりに読んだわたしでも、すぐに世界観を思い出せました。
科学トリック < 犯行動機
「透明な螺旋」は湯川の過去が深く掘り下げられる、シリーズでも珍しいストーリーでもあります。
そのため、これまでのシリーズよりも人間ドラマの要素が増しているのもポイント。
前述しましたが、本作は『ガリレオ』シリーズの持ち味でもあった科学トリックの解明は薄めです。
使われたトリックは極めて単純で、科学的なアプローチからの事件解決を楽しみにしている『ガリレオ』ファンにとってはやや物足りないストーリーかもしれません。
ただし、犯人の動機や心理という点ではとても読み応えがある小説だったと思います。
また、動機が明かされた後にもう一段階展開が訪れ、犯行がただの美談にならないやり切れなさも、切なくて良かったと感じました。
タイトル「透明な螺旋」の意味
「透明な螺旋」というタイトルの意味を読後に考えてみると、切ないながらも救いがあると感じました。
「螺旋」はカバーにも描かれているDNAの二重らせん構造を指しています。
DNAの二重らせん構造、つまりテーマは『血のつながり』であることが示唆されていたのですね。
また、冒頭・プロローグは、ある若い女性が子どもを産んだものの育てられず施設に手放す、というストーリーから始まります。
その直後にプロローグと関係ありそうなある親子の話がスタート。
親子の話が終わると唐突に事件が幕を開けます。
この女性と血のつながった子どもたちの運命と並行して、湯川学の過去という2つの『血のつながり』が絡み合いつつ明かされていくのがこの「透明な螺旋」の面白さでした。
読んでいる最中は見事に翻弄され、見当違いの謎解きをしていたことを告白しておきます。
また、タイトルのうち「螺旋」を形容している「透明」の意味も考えてみます。
これに関してはハッキリとした答えがないので憶測ですが、透き通って見えない、という意味よりも『あるのかどうか分からない』という意味合いだったのではと思います。
『血のつながり』は目に見えないもの。
今は科学技術が発達しているので確かめる術があります。
しかし、確かめる術があることが、はたして本当に良いことなのか。
分からないままならば、分からないままで良いのではないか。
「透明な螺旋」は科学ですべて明かされることが是ではない、というテーマの問いかけだったのかもしれない、と今、書きながら思ってしまいました。
そういう意味では『ガリレオ』シリーズとは正反対の作品だったなと感じます。
『ガリレオ』シリーズらしい科学ミステリーではありませんでしたが、複雑に絡み合った人間ドラマの面白さを堪能できる1冊ではありました。
また、血のつながりは究極のつながりだな、と改めて認識した作品でもありました。
ミステリー小説として読み応え抜群の「透明な螺旋」の感想でした。